フィリピンのドゥテルテ政権が続行していた麻薬撲滅戦争(1月下旬から一時中断)により殺害された密売人・中毒者は7600人を超えた。昨年6月末の政権発足から毎月平均1000人が殺害されている計算で、国内外からは依然として非難の声が相次いでいる。
民間調査機関が昨年12月半ばに公表した世論調査の結果によると、回答者の78%が「超法規的殺人の被害者になるのではないか」との不安を抱いている。一方で、麻薬撲滅戦争については85%が「満足」と答えており、複雑な国民感情が浮き彫りとなった。
これまでに殺害された約7600人のうち、国家警察による殺害は約2500人。残りは「捜査中の殺害事件」として扱われているが、一部は自警団によって殺害されたと言われる。射殺した遺体の両手足をロープで縛り、「私は密売人」と書いた段ボール紙を現場に残して逃走するのが自警団の手口だ。
国家警察のカルロス報道官は以前、筆者の取材に対し「自警団は犯行声明を出しているわけではないので、存在するのか否かは分からない。メディアが勝手に作り上げたものだ」と説明した。元々は有力英字紙の報道でその存在が浮上したが、メンバーの実態は未だに謎に包まれたままで、摘発されたという報道もない。
ドゥテルテ大統領が22年間市長を務めたミンダナオ地方ダバオ市では1990年ごろから、暗殺集団「ダバオ・デス・スクワッド」が暗躍し、麻薬密売人や窃盗犯などの容疑者が次々に殺害されたと言われる。しかし、暗殺集団のメンバーが逮捕、訴追された前例はほとんどなく、真相は未だに闇の中だ。
ある人権団体の担当者は「裏で警察が操っているから暗殺集団のメンバーが逮捕されることはない。殺害された被害者の遺族も報復攻撃を恐れて告訴できないのだ」とその真相を説明する。ダバオ市の報道関係者も「暗殺集団は存在する。しかし、その実体を報道すれば、自分たちが危険な目にさらされる可能性がある」と語る。2003年にはドゥテルテ市政を批判し続けたラジオ局員の男性が射殺された。
ドゥテルテ現政権下で約5000人を殺害したとされる自警団もこれと同じ構図であれば、政権側からその内実が明かされることはないだろう。
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