2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年3月2日

EUはドイツの乗り物

 Brexitとトランプ大統領の登場について3つの論点が浮上しています。

 第一は、トランプのEUに対する侮蔑的態度です。どうやら、不動産取り引きでEUの規制に手古摺り嫌いになったということらしいです。「EUはドイツの乗り物であり、それ故英国が離脱することは賢明だ」「他にも離脱する国があると思う」「EUが米国にとって重要だとは思わない」などと1月16日の英ザ・タイムズ紙のインタビューで述べています。

 第二に、トランプはBrexit後の英国に非常口を用意してくれそうな気配ですが、これは罠になりかねないということです。トランプとメイの世界観は全く異なります。難民問題然り。自由貿易然り、EU観然り、対ロ政策然りです。EUを離れて自主性、主権を回復するといいますが、その挙句トランプという罠に落ちるのでしょうか。ボリス・ジョンソン外相はトランプを「気が触れている」と呼んだことがありますが、そのトランプとメイは、手をつないで歩く場合ではないということです。

 第三に、トランプはBrexit後の英国との自由貿易協定に前向きに見えますが、交渉は容易なものではないということです。牛肉、豚肉に対するEUの高関税、肥育ホルモン使用禁止、遺伝子組み換え作物の排除は米国の標的になるでしょう。他方、英国の主たる輸出利益はサービスに集中していますが、金融サービス分野の規制緩和を米国に呑ませることは至難のわざです。

 この論説は、トランプの登場にEUはどう対応すべきかという第一の問題を論じたものです。トランプがEUを潰せるとは思われません。英国とEUの間に不協和音の種を撒くために英国との自由貿易協定を利用するであろうという観測はにわかに首肯し難いです。トランプにそこまでのEUに対する定見があるようには思えません。ザ・タイムズ紙のインタビューから読み取れることは単に嫌いだということです。しかし、例えば対ロ制裁解除について論説が書いているように、トランプの行動によってEUが掻き回される危険があることはその通りではないかと思います。

 筆者が勧告する4つの行動のうち、暫定的で範囲の狭い協定でBrexitを取り敢えず収拾するというアイデアが現実的か疑問ですが、英国をトランプ側に不必要に追い遣らない配慮は27カ国がして然るべきでしょう。ギリシャ問題を早く片付けることも必要でしょう。中国との経済同盟は感心しませんが、議論の細部はともかく、筆者が全体としていわんとすることは、EUはその態勢を整え、トランプにかき回されないよう努めるべしということであり、それは有用な問題提起ではないかと思います。

  
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