中国が欲しいのは先端技術
中国の欧州への直接投資額は、2014年140億ユーロ(1兆6800億円)、15年200億ユーロ(2兆4000億円)、16年350億ユーロ(4兆2000億円)と急増している。16年の最大の投資対象国はドイツであり、投資数は68、金額は100億ユーロ(1兆2000億円)を超えているとみられているが、その理由は中国が投資、企業買収の対象を、高い技術力を保有するドイツ企業に移してきたことにある。
中国は2015年5月に“Made in China 2025”を公表し、IT、ロボットなどの先端技術を活用することにより、製造業の競争力を強化し、輸入品を中国製品で置き換える方針を明らかにした。具体的な目標として2025年時点での中国製品の国内シェアが掲げられている。例えば、次世代自動車80%、産業用ロボット70%、携帯電話半導体チップ40%などだ。
目標実現には、IT、先端技術が必要だが、手っ取り早いのは技術を持つ企業を買収することだ。2016年5月に、空調設備などを製造している中国の家電メーカ美的集団が、ドイツの自動車産業で広く使われている産業用ロボットメーカ・クーカ株式の最低30%を、14億ユーロ(1700億円)で買い取る計画を発表した。美的集団は、クーカの13.5%の株式を既に保有していたので、実現すれば43.5%以上の株式を保有することになる。
この買収に関し、ドイツ出身の欧州委員会エッティンガー委員が「クーカは欧州産業の将来にとり極めて重要な企業である。仮に同社が中国企業であれば、中国政府が買収を認めるとは思わない」と発言し、買収に反対する姿勢を明らかにした。ドイツ政府関係者も技術流出に注意喚起を行い、ガブリエル副首相兼経済大臣も閣議の席上買収に懸念を表明したと報道された。しかし、民間の取引に政府が介入しないことも同時に示唆された。
美的集団は、情報・技術流出と雇用に関する懸念を払拭するため、少なくとも2023年まで雇用を維持すること、またクーカの顧客データを親会社には開示しないことを経済省に対し確約したと報道されている。結果、美的集団はクーカ株式の80%以上の買い付けに成功し、既存持ち分と合わせ95%の株式を保有することになった。しかし、いつも買収が成功するわけでもない。