2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年3月20日

 ベネズエラでは、期待された大統領リコールの国民投票も抑え込まれ、大規模な国民蜂起も起こらず、深刻な食糧不足と超インフレの中で反政府派が多数を占める議会を無視してマドゥーロ政権が居座り続けています。内政的には、軍等の力の支配が確立し、経済的な破綻は中国の資金援助により回避されているということです。この記事は、中国にマドゥーロ政権を見捨てるように呼びかけていますが、このままでは、2018年の大統領選挙で果たしてスムーズな政権交代が起こるのかも怪しいです。トランプがTPPを廃棄し、メキシコと事を構える状況の中で、中南米では、中国は、「棚ぼた」的な勝利者であり、むしろ、この時とばかり同地域における影響力拡大に乗り出しています。

27億ドルの新たな投資案件

 ベネズエラについては、石油価格が持ち直せば同国の利用価値は依然として大きく、中国は、つい最近、2月14日のハイレベル協議ではベネズエラ石油用の精油所の建設を含む22件、27億ドルの投資案件を約束しました。

 NAFTA見直しに直面するメキシコとしても貿易の対米依存から脱却するため中国との貿易拡大が有力な選択肢として考えられます。産業構造が競合する両国であるので、中国の輸出超過を対メキシコ投資で補うことも考えられます。通信関係でHuaweiはメキシコでのプレゼンスを拡大しつつあり、今月はじめにはカルロス・スリムと中国企業との合弁で新規の自動車生産計画も発表されました。

 他の南米諸国にとっても米国が国境税で市場を閉ざすのであれば、代替する市場を求めなければなりません。中国外相は昨年10月、コロンビアとのFTAに関心を表明し、3月半ばに、太平洋同盟議長国のチリが開催するTPPの不成立後の方向性を議論するアジア南米会合にも既に参加の意向を示しています。

 「国境の壁」問題で南米諸国は今のところ特に発言していませんが、メキシコが望めば南米諸国は一致してメキシコの立場を支持することになり、米国と南米関係全体が対立するような構図になれば、さらに中国に付け入る隙が出て来ます。トランプ政権の迷走は、この地域にとっても憂慮に堪えません。日本は中南米の自由貿易諸国との関係でTPP合意を何らかの形で活用すべきでしょう。

  
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