今回は私の専門「経理・財務」にすこし関連があることを述べます。
2010年5月20日、日本経済新聞の投資財務面(15面)に次のような記事が載りました。
「新日本監査法人――会計士100人企業に出向 経営の現場で3年修業」 新日本監査法人は2012年までに100人程度の公認会計士を企業に出向させる。監査だけではなく企業経営に精通した会計士を育てる。(中略)対象は5~7年の実務経験がある27~35歳の会計士で出向期間は3年間。初年度となる今年はまず4月に20人が出向、7月にさらに20人を送る。商社や食品メーカーなど上場企業の経理や人材開発部門に配属してもらい、新日本が出向先と同水準の給与を払う。出向期間中は、最高財務責任者(CFO)の啓発や育成を担う日本CFO協会主催の研修に参加。(中略)出向期間が終わると原則は新日本に戻る。本人が希望すれば企業に残れるようにする。(後略)
これには、公認会計士の方を受け入れる上場会社もウエルカムです。経営の生きた現場で公認会計士が修業するこの新日本方式は、日本中のその他の監査法人・会計士事務所にも必ず広がるでしょう。その結果、世界におくれをとっていた会計士の産業界進出が急速に進み、日本の会計士の経営実務と企業会計力が、私の夢見ていた欧米と同一水準に必ず到達すると思います。
これは決してお金をどうのこうの、という問題ではありません。日本国の将来を担う若人を育てたいと、73歳の私が考えてのことです。強行採決で衆院通過を目指す亀井静香金融・郵政担当大臣所管の郵政改革法案や、米軍普天間基地移設問題で連立政権を離脱した社民党など、大きな問題が相次いでいますが、そのような情況であっても日本の将来を担う人材の育成は片時も忘れられません。
国や、亀井静香大臣が率いる金融庁には、最大級の支援をお願いしたいと思います。金融庁の方々が、「真の実力ある公認会計士の育成を机上ではなく現実に実行すること」に力を注ぎ、具体的な行動を起こしていただくことを切望します。
就職できない会計士試験合格者
過去、難関国家試験のひとつだった公認会計士試験は、2006年から簡素化された経緯があります。2010年2月25日の日経新聞の記事「会計士新試験5年目――監査主体の人材育成 限界(竹内冬美氏執筆)」によれば、次のような事態に陥っています。
・2007年は合格者が2695人と前年比で倍増するなど、高水準の合格者数が続いている。しかし受け入れ体制は整っていない。
・そもそも試験を突破しても直ちに会計士になれるわけではない。補修所での研修と監査法人などでの2年間の実務経験が必要。一般企業に就職しながら研修や実務経験を積むことは事実上難しく、監査法人に就職できなかった合格者は浪人する例がほとんど。昨年は合格者の3分の1にあたる700人が就職浪人となった。今年は1000人を超えるともいわれる。
・会計専門家のすそ野を広げると期待された会計大学院も苦境に陥っている。会計大学院修了者は短答式試験の一部科目が免除されるだけで、試験との連動性が低いため魅力に乏しく、定員割れが相次いでいる。
・これまで採用を強化してきた監査法人も、人件費負担の増加などで業績が悪化するところが増えた。
このような事態を受けて、昔の超難関試験に戻して、合格者を絞ろうという意見も出されています。産業界での需要が高まってきたという認識から、合格者が増やされたのに、実際に産業界への進出が進まなかったのはなぜか。例えば米国の場合、約40万人の会計士の大部分は企業人として働き、ごく一部の人が企業の会計監査人として仕事をしています。このような方向を我が国も目指すのかどうか、その根本のところをきっちり把握することなく、制度を元に戻すだけでは解決しないと思います。制度変更で翻弄される若者がかわいそうです。