ところで、Sさんと彼のITスタッフはロケットサイエンティストではない。そうでない彼らでもAIの特性を理解することで、凡そ不可能と思われてきた情報の非対称性の壁を取り払うことに成功しつつある。AIを使いこなす立場だからこそ、到達した境地なのである。
ここで我々は、ネットに関しても似たような経験をしてきたことを思い起こさないといけない。過去50年を振り返って日本が大きく変わったことは、冒頭に述べた通りである。ネットが世に登場して約20年。ネットが登場する以前の30年と、登場後の20年を比較した場合、生活やビジネス環境の変化の割合が大きいのは当然後者である。
ネットが使えるかどうかによって生活の質に差異が生じる、デジタルデバイドという現象がある。ただ高齢者の間でもネットリテラシーが上昇しており、現状の定義によるデジタルデバイド問題は消滅していくであろう。ただ真の格差は、ネットユーザーの立場で終わる人と、ネットにコマンドを出してそれを経済活動や学業に活用できる人との差であろう。
私自身、ネットの本質とポテンシャルを理解することなく、ただ利便性ばかりを追求する単なるユーザーとしての立場に甘んじている。私発で、ネットを活用した新しいビジネスや付加価値が世に出されることはまずないであろう。
AIをディープに学ぶことが必須に
AIに関しては、その習熟の度合いによってさらに大きな格差が顕在化するであろう。即ち、AIにコマンドを出して新しいサービス(価値)を創造できる人と、そのようなAIサービスのユーザーで終わる人である。後者の中には、AIによって職能を代替されてしまう人が多数含まれると考えられている。もはやAIユーザーではなく、AIに使われる立場と言ってもいいかもしれない。
このような問題意識は、次世代の教育の在り方にも大きな影響を与えるはずである。ディープラーニングを厭わないAIの特性を、それこそ「ディープ」に学んでいくことは間違いなく必須になるであろう。
人生100年時代に入ると言われている。ASEANとほぼ同い年の私は、ASEAN100周年の記念行事も見ることができるのではないかと期待している。当然、今後の50年は過去50年よりも大きな変化がもたらされるはずである。ネットのコマンダーにはなれなかったが、いっちょAIをディープラーニングしてみるか。人生の折り返し地点にあって、密やかな決意をする私である。
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