2024年7月16日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年4月10日

 社説の指摘は全くの正論です。このような社説が出ること自体は心強いことです。

 3月1日、米通商代表部は米通商法に基づき「2017年貿易政策の課題と2016年年次報告」を議会に提出しました。全体で336頁、冒頭の8頁がトランプの貿易政策の課題と題された第一部となっています(残りは現行の貿易協定の現状やWTOの活動等についての詳細な報告)。第一部は、選挙演説のような議論になっています。ピーター・ナヴァロ等が書いたのでしょう。それでも、貿易擁護の観点から均衡を取るために誰かが精一杯手を入れたのではないかと推測される文言は見られます。

 報告で特に注目される点は次の通りです。

  • 最大の目的は「より自由でより公平な貿易」を拡大していくこと。雇用を拡大し、相互主義を増進し、米の製造業を強くする。
  • 多国間取決よりも二国間取決が米の利益になる。
  • 地政学上の考慮のために不公正貿易に目をつむるという考え方は「拒否」する。
  • 不公正貿易慣行を打破する。米の知的財産を守る。
  • 米国内法を厳密に実施していく(ダンピングや補助金への対処で)。
  • 米の権利や利益を弱くし義務を増大させるような他国やWTOの努力には「抵抗」していく。
  • 現存の貿易協定は必要に応じ改定する。
  • 優先事項は、①貿易上の国家主権を守る(WTO紛争処理の裁決が「自動的に」米の法律や慣行を変えることにはならない)、②米の通商法を厳密に実施する、③他国の市場を開放するためにあらゆるレバレッジを使う、④主要国と新たなベターな貿易取決めを締結することの四つである。

 トランプ政権が考えを変えない限り、これからの国際貿易やWTOは試練を受けるし、混乱することになりかねません。戦後の国際経済の発展、世界経済のダイナミックスと米国の利益に関し、もう少しバランスのとれた理解を持ってもらいたいものです。

 ナヴァロは「大統領府が懸念する貿易赤字:不均衡は経済成長を危うくし米の安全保障を危険に晒す」と題する寄稿文を3月5日付ウォール・ストリート・ジャーナル紙に寄せ、日本の「恐るべき非関税障壁」の除去が必要などと主張しています。

 しかし、ナヴァロは貿易赤字を妄想しているように見えます。モノの貿易偏重とも言えます。貿易赤字の議論は短期的思考であり、貿易の縮小均衡をもたらしかねません。貿易を一層自由にしてパイを大きくしていくというダイナミックな思考が欠如しています。それは80年代の日米貿易摩擦の時代の教訓でもあります。経済を効率化し、資源を最適利用して、産業構造を不断に変革していくことこそ、経済成長をもたらすものであり、狭小な赤字議論をやっていては長期的に米国の力が衰退して行きかねません。

  
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