2024年7月16日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年4月27日

 ブルッキングス研究所のスティーブン・パイファー上席研究員が、同研究所の3月21日付ブログにて、ロシアがINF条約に違反して地上発射巡航ミサイルを配備したとされる問題について、問題を米露間だけの問題として扱うのではなく、脅威に晒される諸国を巻き込んで対応すべきことを論じています。要旨、次の通り。

(iStock)

 3月8日、米統合参謀本部副議長は、ロシアがINF条約(中距離核戦力全廃条約)に違反して、禁止されている地上発射巡航ミサイルを配備したことを確認した。このミサイルは欧州およびアジアのロシアの近隣国に対する脅威であるが、これら諸国は沈黙している。INF条約を救うには遅すぎるかも知れないが、米国は試みるべきである。それには、この問題をロシアと脅威の対象となる諸国との間の問題として扱いロシアに対する政治的批判を強めるべきである。

 INF条約は1987年にレーガン大統領とゴルバチョフ書記長が署名した画期的な条約で、初めて特定の種類の核兵器を全廃した。条約は米国とソ連(ロシア)が射程500ないし5500キロの地上発射巡航ミサイルおよび弾道ミサイルをテスト・配備することを禁じた。1991年半ばまでに両国は2700近くのミサイルを廃棄した。

 2014年、オバマ政権はロシアが条約に違反して地上発射巡航ミサイルをテストしたと非難し、条約を順守するよう求めたが、効果はなかった。共和党議員は米国も同様中距離の巡航ミサイルか弾道ミサイルを作ることを提案した。しかし、そういう措置に踏み出す前に、国防省の逼迫した予算にそういう余裕があるのか?また、NATO諸国、日本、韓国がその領域にその種の米国のミサイルを配備することに同意する見通しはあるのか?

 SSC-8と名付けられた核搭載の巡航ミサイルの射程は2000キロと想定されており、ロシア西部に配備されれば、ヘルシンキ、ストックホルム、ベルリンからパリ、ロンドンまでもが射程に入る。ロシア極東に配備されれば、日本、韓国そして中国の大きな部分が射程に入る。米国本土には恐らく届かない。

 これは米露間の深刻な条約上の問題である。しかし、一義的に脅威に晒されているのは欧州とアジアである。ところが、これら諸国は何ら懸念を表明していない。その一半の理由は米国が情報源を秘匿するために条約違反について限られた情報しか提供していないことにある。

 トランプ政権はNATO諸国、日本、韓国、スウェーデン、フィンランド、更には中国のような諸国と情報の詳細を共有出来るよう、情報機関に工夫を命ずるべきである。つまり、米国はこの問題を多国間の問題とし、ロシアに対する政治的批判を強めるべきである。米国の不興を買うだけではロシアは痛痒を感じないかも知れないが、メルケル首相、安倍総理、習近平国家主席が怒りの声をあげれば、プーチン大統領は何と思うか?これら諸国は標的とされているのだから、心配して然るべきである。

 INF条約は崩壊するかも知れない。それは欧州とアジアの安全保障にとっての損失である。条約の保全のために、米国はロシアのミサイルの直接の脅威に晒される諸国を巻き込むべきである。

出典:Steven Pifer,‘Multilateralize the INF problem’(Brookings Institution , March 21, 2017)
https://www.brookings.edu/blog/order-from-chaos/2017/03/21/multilateralize-the-inf-problem/


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