AIはシンギュラリティの夢を見るか?

2017年4月29日

»著者プロフィール

 「モノ売り」を捨てるべきではない

 アップルをステージャーと呼んでもよいでしょう。しかし、アップルは「モノ売り」の企業です。モノの経験価値を向上させるためにアプリや音楽の配信サービスなどを行っていますが、収益のほとんどをiPhoneというモノの販売から得ています。パナソニックは「モノ売り」を捨てなくてもステージャーになれるのです。逆に、「モノ売り」を捨てるべきではありません。

 モノを造って売ることで利益を得るか、サービスから収益を得るかは、どのような価値をどのように顧客に提供するかによって決まることです。説明会では「ハードウェアを私たちが所有したままで、そのハードウェアを使って何らかの便益をお客様に与える」といった新しいビジネスモデルへの取り組みも示唆していましたが、それもイノベーションの本質ではないでしょう。しかし、「モノ売り」を捨てるべきでない理由は他にあります。

 いま注目を集めているAIは、「機械学習によって精度を格段に向上した、与えられたデータを認識して予測や分類をするソフトウェア」です。例えば自動運転車では、カメラやGPS、レーダーなどのセンサーといった「データの取得システム」が取得した画像などのデータが「認識、予測・分類のシステム(AI)」に送られ、そこで認識し予測・分類した結果が自動車という「行動のシステム」に送られます。「行動のシステム」では、それに対応するあらかじめ決められているアルゴリズムによってハンドルやアクセルやブレーキなどの操作(行動)が実行されます。この3つのシステムを、自動運転車やロボットのようなひとつのモノに組み込んだり、IoTとクラウドとモノとに分散させたりする実装が考えられます。

 データを認識して予測や分類をするAIの用途は、現時点では「画像認識や音声認識や自然言語処理」だと考えてよいでしょう。これらのソフトウェアは以前からありましたが、機械学習、特にディープラーニングが可能になったことによってその精度が飛躍的に向上しました。認識率が95%を超えて99%に迫るようになると、人間の認識の精度を越え、その実用性や応用範囲は次元の違うものになります。

 サービス分野での(画像認識や音声認識や自然言語処理の)AIの活用は、グーグルやアマゾンなどの米国勢と、バイドゥ(百度)などの中国勢が大きく先行しています。彼らは検索やEコマースなどの自社のサービスでAIを活用するだけではなく、AIを利用できるプラットフォームをサードパーティにも開放しています。

 AIはソフトウェアです。これまでソフトウェアは人間がプログラムするものでしたが、AIは与えられたデータから学習し成長します。何を学習させてどのようなAIをつくるかは、AIを組み込むモノによって異なります。モノの機能ごとにAIをデザインして、必要なデータを用意して学習させる必要があります。この分野は、サービス分野に比べてまだまだ未開拓で、日本の製造業にもチャンスがあります。パナソニックが採るべきAI戦略は、3つのシステムを組み込んだモノを発明し、それを造って売ることではないでしょうか。

 「データの取得」「認識、予測・分類」「行動」の3つのシステムは、それぞれ目や耳などの感覚器官、感覚の認識と運動の学習を行う小脳、そして手や足などの運動器官に相当します。目や脳を持たなかったモノが、取得したデータを非常に高い精度で認識し、予測・分類できるようになることで、これまで考えられなかったことが可能になるはずです。さらに「行動のシステム」についても、行動を学習させて習熟させる取り組みが始まっています。

関連記事

新着記事

»もっと見る