國松氏はあくまで個人の立場での主張だというが、現状の「なし崩し」的な外国人の大量流入が進めば、そのしわ寄せは現場の警察に来る。不法滞在や目的外のビザでの就労を許していけば、それこそ不良外国人が跋扈(ばっこ)し、治安が乱れることになりかねない。
ドイツは1960年代から70年代にかけて、トルコなどから大量の「労働力」を導入した。「ガストアルバイター(ゲスト労働者)」と呼ばれた彼らは、その後、ドイツの都市部に集住してトルコ人街を作り、ドイツの社会不安の大きな原因になった。貧困の再生産が犯罪をもたらし、ドイツ人社会と「分断」が起きたのだ。
その反省からドイツ政府は2000年代になってようやく「ドイツ移民国家」であることを宣言。移住を希望する外国人には最低400時間のドイツ語講習を義務付けるなど「生活者」として受け入れる制度を整備した。
日本でもようやくそうした動きが出始めている。超党派の国会議員で作った「日本語教育推進議員連盟」がそれ。中心人物のひとりで議連会長代行の中川正春・元文部科学大臣らが、日本に住む外国人子弟に日本語教育を受けさせる仕組みを作ろうと呼び掛けて設立した。近く「日本語教育振興基本法(仮称)」の素案を公表する予定だ。
実は、浜松市など外国人受け入れを先進的に行った地域で、今大きな問題が起きている。ブラジル人夫妻の間に生まれた子どもが母国語であるはずの「ポルトガル語」も、住んでいる国の言語である「日本語」も両方十分に使いこなせない「ダブル・リミテッド」と呼ばれる状態になりつつあるのだ。そうして育った子どもは高等教育も受けられず、良い仕事にもなかなか就けずに貧困化していく。このままでは、ドイツが半世紀前に歩んだ失敗を踏むことになりかねないのだ。
秋田県大潟村で大規模農業を営む有限会社正八の宮川正和氏は言う。
「繁忙期だけの労働力というのではなく、一緒に長く働いてくれる人材が欲しい。外国人が会社の幹部になってもいいと思っているんです」
急激に進む人口減少の中で、事業を続け、成長させていこうと思えば、人材の確保が不可欠になる。女性や高齢者の活用で乗り切れる事態でないことは明らかだ。このままでは日本全体が「人手不足倒産」に陥りかねない。日本の経済、地域社会を支える存在として「外国人」の役割を真剣に考える時が来ているのではないだろうか。
1. 政府としての明確な定住外国人受け入れ方針の策定
2. 定住外国人を「生活者」として受け入れる理念の明確化
3. 政府の責任で日本語教育を行うことの明示
4. 地域の定住外国人交流拠点の整備
5. 未来投資会議等の下に「定住外国人政策委員会(仮称)」の設置
現在発売中のWedge6月号では、以下の特集を組んでいます。
■特集「気がつけば移民国家 中途半端な外国人受け入れを正せ」
・町の存亡をかけた「外国人と共生」という決断
・国際都市でも対応に苦慮 多国籍化する住民との「言葉の壁」
・日本の現場を支える外国人労働者
・日本の職場を支える〝留学生〟という出稼ぎ労働者
・持続可能な社会に向けた外国人労働者の受け入れ戦略
・日本の人手不足倒産を防げ 外国人との共生に向けた議論を
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。