「足が速いよね」と何度も言われた子は、「自分は足が速いんだな」と自分を理解します。
「色のセンスがいいよね」と褒めてもらうことが多ければ、絵を描いたり見たりすることが好きになります。
与えられた言葉によって、自分自身を作っていくのです。
渡された言葉によって子どもは自分自身の使い方を決めていく
周囲から渡された言葉が、自分はそういう人なんだというアイデンティティの一歩目を踏み出させます。そして、「そういう自分」を育てていくうちに、自分の中でも自分自身はこうでありたいという自我、内発的なアイデンティティが育ち始めます。自分の体験、自分の意思によって、自分らしさが確立されていくというのが、成長のイメージではないでしょうか。
しかし、子どもにとって渡されてきた言葉によるアイデンティティの縛りは、とても大きいものです。「自分はそういう人なんだ」という思い込みが強ければ、自分が持っている可能性に気づかず、力を発揮できないことがあります。
ある女の子は、母親がうっかりと「あなたは算数のセンスがないわねぇ」と口走ってしまったことが意識に残ってしまって、それからずっと自分は算数ができないと思い込んで、成績も低空飛行を続けていました。でも、絵を描くのが得意な彼女は、図形的センスにあふれていました。計算も、生真面目な性格で慌ててしまうために間違っていただけで、間違えにくい工夫を教えてあげれば、すんなりと解けるようになりました。
もともと算数的な能力は持っていた子だったのです。
でも、苦手でした。成績も取れませんでした。自分には算数のセンスがないと思い、数字や図形の力を使おうとしてこなかったからです。
渡された言葉の数と種類によって、その子は自分自身の力の使い方を決めていくのです。
子どもは、自分が持っていると思う力は、使うことができます。
プラスの言葉をたくさん渡された子は、自分の持つ天才を当たり前のように使っていくから、伸びていくのです。
逆に、自分には欠けている。自分はそんな力は持っていないと思っている力は、使いません。
使わなければ、「できる」という経験も、自信も生まれてきません。