わかりやすい言葉で“3本の柱”を立てる
――伊藤監督はどんな方法でその想いを伝えているのでしょうか。
伊藤:俺は作品をつくるにあたって、最初に“3本の柱”を立てるようにしています。『ソードアート・オンライン』であれば「(主人公の)キリトが強いこと」、「キリトと(ヒロインの)アスナのラブ」、「仮想現実感・VRゲーム感」です。この3つを守ってくれれば、あとは大丈夫です、というふうに絵コンテや演出のスタッフに伝えました。
――その3本の柱はどうやって決めたのですか?
伊藤:アニメ化にあたって原作を出している出版社の編集部に行って、読者ハガキを見せてもらいました。読者ハガキを送るというのはすごく熱意がないとやらないことですし、そこにはネットとは違ったポジティブな気持ちの発露があるだろうと。それを見ればファンが原作のどこに魅力を感じているか実感できるだろうと考えたんです。
『ソードアート・オンライン』って「俺TUEEEE」系(主人公の強さが圧倒的なタイプの物語の俗称)の代表的作品と言われたりしますが、ハガキを読んでみるとやっぱり「キリトの強さ」をちゃんと映像として見せるのは大事だな、と。それと同じで「キリトとアスナのラブ」も、この作品はこっ恥ずかしくなるぐらい甘く見せるべきだし、ほかのファンタジーものとの差異化という意味で「VRゲームらしい表現」を盛り込まないといけないな、と考えたんです。
この3本の柱は劇場版(『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』)でも受け継がれています。
――すごくわかりやすいですね。
伊藤:わかりやすくないと伝わらないんです。ハリウッドの脚本術の中に「ログライン(ストーリーを1~2行で説明した短文)は、プロデューサーとエレベーターに乗り合わせている間にパッと説明できるようなわかりやすいものがよい」というエピソードがあります。それと同じでスタッフに狙いを伝える言葉も、わかりやすいワードを並べなくては役に立たないと思うんです。
――ほかの作品にも3本の柱があるのでしょうか。
伊藤:あります。『僕だけがいない街』の時は「ノスタルジック感」、「(ヒロインの)雛月かわいい」、「サスペンス」の3つでした。これはスタッフに説明する時にも使いますが、同時に成果物をチェックする時の基準でもあるんです。だから絵コンテをもらって「サスペンスが足りないな」と思ったら、サスペンス感を増すように修正するわけです。
この3本の柱を立てるというやり方は俺のオリジナルではなく、『世紀末オカルト学院』のシリーズ構成だった脚本家の水上(清資)さんの受け売りなんですよ。
『世紀末オカルト学院』が始まる時に水上さんと飲みながら「この作品でやりたいことを三つ選べ!」って言われたんです。自分の中に沢山「やりたいこと」はあったんですが、そうやって突きつけられて、悩んだ末にようやく三つを選び抜いたのですが、すっかり夜が明けていました。『世紀末オカルト学院』は原作のないオリジナル企画だからこそ言葉の形にするのは大事でした。それから作品ごとに3本の柱を立てるようになったんです。