2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年7月19日

 この論説の筆者のうち、ハドレーは米国平和研究所所長で元米国家安全保障担当大統領補佐官、また、ユセフは同研究所アジアプログラム副所長です。

 論説が書かれた背景は、2月9日、アフガニスタン派遣軍のニコルソン司令官が上院軍事委員会で証言し、現状は「手詰まり」であり、「手詰まり」を維持していくのですら「数千人」の兵員が不足しているとして、増派を求めたことにあります。状況は思わしくありません。アフガニスタンの3分の2は政府の支配下にありますが、10%はタリバンが支配、残りの地域は双方で抗争中だといいます。アフガニスタンが頑強な反乱勢力と機能不全の腐敗政治に喘いでいる基本的状況には変化がありません。アフガニスタン駐留米軍のニコルソン司令官は、タリバンがパキスタンに聖域を与えられている状況では成功は困難であるとして、米国は対パキスタン政策の「全体的レビュー」を必要としているとも述べています。

 トランプ大統領は、この問題に関心はないようです。選挙戦でもアフガニスタンに言及することは殆どありませんでした。ペンタゴンでは3,000ないし5,000の増派が検討されていると言いますが、トランプは増派の規模の判断をマティス国防長官に委ねたと報じられています(駐留兵力はNATO諸国を含め13,000、うち米軍は8,400)。

 敗北よりも「手詰まり」のほうがましです、米軍派遣の一義的目的はアフガニスタンが米国とその同盟国を攻撃するためのテロリストの聖域と化すことを阻止することですから、世界の98のテロ組織のうち20がこの地域に集中している状況で、「手詰まり」すら維持出来ないのであれば、これまでの努力が無駄になる、として増派を支持する意見もあります。しかし、増派の是非、および是非の判断を可能とする新たな戦略(16年に及ぶこの戦争をどうするのかというトランプ政権の戦略)についての議論は、議会を含め置き去りにされています。

 この論説は、対アフガニスタン戦略をめぐる議論に一石を投じる意図で書かれたものかと思われます。しかし、「新たなより戦略的なアプローチ」といってはいますが、論説に書かれていることに別段目新しいことはありません。問題の解決には政治的解決しかないこと、パキスタンの関心が自己の存立に係わる、優れて戦略的なものであることは、つとに認識されています。それでも、事態打開には至っていません。増派に決するなら、それをパキスタンの協力と和平プロセスにつなげる工夫が必要でしょう。最近、マクマスター補佐官がこれら3国を訪問したようですから、何か新しいことが出て来るかも知れません。

  
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