蔡英文政権にとって、中国との関係のあり方、中国との距離の取り方は、政権成立以来、困難な課題であり続けています。本論説は、台湾政治家の中国訪問数が最近とみに増えているとして、一定の歯止めをかける必要があると警告しています。
8年間の馬英九国民党政権下において、中国との人的・物的交流は飛躍的に伸びました。これに対し、蔡英文政権は、中国との関係につき「独立」を封印しつつも「統一」を否定し、「現状維持」を目指すとの方針をとってきました。
この「現状維持」とは、台湾は国連のメンバー国ではないが、中国の統治下にもない政治・経済上の実体としての状況を続ける、という意味です。中国からの圧力に直面する台湾にとって、独立、統一、現状維持という3つの選択肢のなかでは、現状維持こそ、「台湾人意識」の強くなっている今日の台湾ではもっとも現実的な選択肢と考えられています。またそれは、中国との関係改善に強く傾斜した馬英九政権への反発としての意味をもつものでもありました。
しかしながら、「現状維持」とは言うは易しくして行うは難し、ともいうべき概念です。なにもしなければ台湾海峡の現状は維持されるというほど簡単ではありません。
今日の蔡英文政権は、左は台湾独立を主張する人々、右は中国とのより強い結びつきを求める国民党系の人々の双方の側から批判される、という立場に立たされています。
台湾の人々のアンケート調査をすれば、住民たちの「台湾人アイデンティティ」は一貫して強まる傾向を示しています。「国際的な政治的地位の正常化」を望む住民は約9割に達するという世論調査を、本論説は挙げています。しかし、他方、それに逆行するようですが、台湾の政治家たちが中国を訪問する数も増えており、彼らが中国に取り込まれつつあるのではないかとの不安感が台湾のなかで高まりつつあるのも事実です。
特に最近注目を浴びた台湾政治家の一人に、台南市長であり、民進党有力議員である頼清徳がいます。頼は中国を訪問しましたが、その後、台湾と中国の関係については「親中愛台」が良いと発言しました。この発言は、頼まで中国に取り込まれつつあるのではないかとの憶測を呼ぶきっかけとなりました。
一方、中国は台湾への攻勢を弱めていません。「92年コンセンサス(「一つの中国、各自解釈」)」を蔡英文が認めるまで、台湾に圧力を加え、台湾を国際的に孤立させるとの方針です。その顕著な動きが、最近のパナマと台湾との断交、WHOへの台湾のオブザーバー参加の拒否、台湾民進党党員の拘束などです。
蔡英文としては、これまで「現状維持」政策のもとで、中国を過度に刺激・挑発しない方策をとってきましたが、最近の中国の攻勢に対し、なんらかの有効な対応策を打ち出さなければ、国内的に見て、一層の支持率低下に直面せざるを得なくなるかもしれません。
トランプと蔡英文の電話会談のあと、米中関係は北朝鮮をめぐって新たな展開を見せました。今回の中国・パナマの国交樹立は、台湾にとっては全く予期せざる事態であり、トランプの対中態度の軟化を中国が巧みに利用した形となりました。
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