2024年4月18日(木)

『いわきより愛を込めて』

2017年10月22日

結婚のお相手は神奈川県から

 「まず、大きく変わったのは講座の内容ですね。盛り上げっ課の活動はなるべくお金のかからない範囲で小さくやってきたのですが、経済産業省の補助金が取れるのではないかというので、活動の幅を広げるために初めて公募に申請してみたのです。そうしたら通ってしまったので、ちゃんと講師を呼んでベリーダンス講座とか太陽光パネルを組み立てる講座なんてものやってみました。川内のジジババに頼んで、お正月の鏡餅づくりの講座も開きました」

 結婚のお相手は神奈川県から、やはりボランティアにやってきた男性だという。学生時代にゼミの活動で一度川内村にきて、その後、大学を半年間休学して「盛り上げっ課」の立ち上げを手伝ってくれたりしたという。現在は福島県内の会社に就職をしており、新居はいわき市内にある。

 現在西川さんは、川内村にあるカフェ、Amazon(=アメイゾン)で週に3日ほどアルバイトをしながら、盛り上げっ課の活動を継続している。

 「最近、私と同世代の県外からボランティアで来た子がよく結婚しますね。川内村では私以外にももうひとり、村内で出会った福島の男性と結婚する子がいるし、川内村以外でも同じような例があります。ボランティア活動をやる中で知り合った同士が結婚する例が多いですが、やはり、利益と関係なくやりたいことを一緒にやったという経験が大きいのではないでしょうか。正直言って、これだけたくさん結婚するなら、婚活イベントなんかやるよりも、ボランティア活動とかイベントを一緒にやらせるのが一番だと思いますよ(笑)」

 前回インタビューした時には、「いろんなことがやりたくて仕方ない」とのことだったが、西川さんの目下の夢はなんだろうか。

 「まずは、川内村で暮らすことですね。結婚していわき市内で暮らしてみたら、体調を壊すぐらい水がおいしくない。川内は井戸水だったのですごく水がおいしくて、いまになって、とても贅沢な暮らしをしていたんだなと思いましました。私は自転車で10分ほどの距離にいた祖父母にかわいがられて育ったのですが、川内村にも祖父母のような存在の人ができたので、自転車で10分とは言わないまでも、自動車で10分ぐらいの距離には住みたいんです」

 仮設住宅や借上げ住宅の無償提供が、今年3月で打ち切りになったことで、川内村に帰還する人が若干だが増えてきているという。また、工業団地の建設も進んでいて、工事や企業関係の人の出入りも多くなってきたそうだ。

 西川さんはこれから、どのように川内村とかかわっていくのだろうか。

 「川内村に移住するには、まず旦那さんを説得しなくてはなりませんが、だんだん私に洗脳されてきた感じです(笑)。盛り上げっ課の活動は、補助金の申請がひとつの節目になって、私が音頭を取らなくても、メンバーのみんなが率先してやってくれるようになりました。ちょっと手離れした感じですね」

 ではもう、やることはない?

 「実は私、食べることが何よりも好きなんで、川内村の食材を使ったカフェを開きたいんです。川内村にはおいしい食材がたくさんあるのですが、そのおいしさを(村外に)伝えきれていないと思うので」

 西川さんは早く川内村のジジババの近くに住みたいと言うが、いつかジジババがこの世を去ったら、自分は川内村を離れるかもしれないと言う。その一方で、自分がババになって川内村の子供たちと離れたくないと思うようになるかもしれないとも……。

 川内村立川内小学校の昨年の新入生は4名。ことしは10名の新入生が入学したそうである。むろん、全校生徒数50名は震災前の半分に過ぎないが、明るい兆しもなくはない。西川さんたちの移住者を呼び込む活動は、これから実を結んでいくのだろうか。

 ただ、他地域からの移住者が地域に溶け込んで生きることは、想像以上に難しいことのようだ。

 「去年の夏、川内村に詳しいということで、国から地域を回る仕事を手伝ってほしいと頼まれたのですが、その仕事がめちゃくちゃ忙しくて鬱状態になってしまったんです。外から来た仲間はみんな、一回は沈む時期があるみたいです。やりたいことがたくさんあって心が先走る一方で、地元の人が考えていることと自分の考えていることが違ったりして、なかなか自分のペースと周囲のペースの違いをつかみきれない。ゆっくりすることを許される場所ではあるので、ゆっくり回復できればやっていけると思うんです」

 昨年インタビューをした時は自分探しの真っ最中という印象だったが、再会してみて、西川さんは本気で新しい故郷を手に入れようとし始めているのかもしれないと思った。それには、鬱の季節を通過しなくてはならないのだろうか。

 いずれにせよ、東日本大震災と福島第1原発の事故が――西川さん本人の言葉を借りれば――「思いもよらない人生」を被災者ではないひとりの若者にもたらしたことは間違いない。
 再会を約束して、スターバックスいわき鹿島街道店を後にした。

 夕方からは、猪狩さんの知人で兼業農家を営んでいる人物に会う約束だ。セシウムの影響や風評被害のことについて話を聞くつもりである。

  
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