2024年4月25日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年9月13日

 ロシアのINF条約違反に対抗して、米議会では新型巡航ミサイルの開発に予算を講じる動きがあるが、米国によるINF条約撤退は米国の安全保障に何も資さず、INF条約に関しては、ロシアと戦略対話を行うべきである、と上記論説は言っています。

 その通りですが、問題は、具体的に米露間で何を話すかです。

 ロシアのINF条約違反については、さる3月に、セルヴァ統合参謀本部副議長が議会証言で、ロシアはINF条約に違反する地上発射巡航ミサイルを配備したと述べました。この「SSC-8」と呼ばれるミサイルの開発はかねてより知られていました。

 これに対し、米国が新型巡航ミサイルを開発すれば、米ロ間で中距離核戦力(INF)の分野で軍拡競争が起きる可能性が高く、そうなると欧州をはじめ世界で核をめぐる情勢が極めて不安定となります。論説はこのような事態の防止はトランプ政権の意思と能力にかかっていると述べていますが、トランプは新STARTにも反対であると言います。トランプはおよそ米ロ間の軍備管理体制に疑念を持っているようです。おそらくトランプは軍備管理の意義が分かっていないのでしょう。そうであるとすれば、マティス国防長官やマクマスター補佐官などが、軍備管理問題で主導権を発揮する必要があるでしょう。

 ロシアにはINF条約に違反しているのはむしろ米国であるとの議論があります。一つは米国がミサイル防衛実験の標的として使用しているトライデント潜水艦発射弾道ミサイルの改造型が、INF条約違反であるとの議論で、さらに米国が欧州ミサイル防衛計画の一環として配備を計画している「イージス・アショア」からは迎撃ミサイルだけでなくトマホーク巡航ミサイルの発射も可能であり、INF条約が禁じる発射機に該当する、と言っています。これらの議論は言いがかりである可能性もありますが、ロシアが如何に米国のミサイル防衛計画を警戒しているかを示唆しているともいえます。

 なお、米国は東欧の「イージス・アショア」に使用している発射システムについて、弾道ミサイル対処用の迎撃ミサイルしか発射できないような措置を取っています。

 このほかにロシアは、米ロ以外の第三国(中国のことと思われます)が自由にINFの配備を進めていて、INF条約は不公平であるとも言っています。

 ロシアは公式にINF条約からの脱退を表明しているわけではありませんが、ロシアが条約に不満を持っており、違反をしていることは明らかであり、米国がこのようなロシアとINF条約を維持することは容易ではありません。

 INF条約問題が、米ロ関係のとげの一つであることは間違いありません。

  
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