「出物」はファンドが再生した企業かもしれないし、売却せねばならない事情を抱えた企業である可能性もある。前者の場合、事業内容はピカピカだろうが値段が高い。後者はPMIで苦労する可能性が高い。そしていずれの場合もまず間違いなく入札案件となる。
もう一つは、M&Aを成長戦略として捉えている企業は、継続的に買収すべき企業研究を行っているということだ。中には、買収先を探すためにターゲット国に駐在員事務所を置いて情報収集活動をしている企業もある。
駐在員にターゲットをリサーチさせる際の留意点
ここで気を付けなくてはいけないのは、駐在員はM&Aのプロではないので、DD的な視点で対象を見ることができず、瑕疵のありかを予見できないことだ。リサーチの段階からアドバイザーを付けることをお勧めしたいが、そのハードルは高い。
私のクライアントでアジア某国に駐在している方がいる。現地での情報収集が思うようにいかず、アドバイザーをつけたいと本社にお伺いを立てた。ところが、「お前を駐在させているのに、さらに外部の業者を使うことは何事か」と一蹴されたという。情報はタダだと考える日本企業にありがちな話だが、いい情報を得るにはコストがかかることを覚悟せねばならない。
もう一つの留意点は、駐在員がターゲットの経営陣と距離が近くなりすぎることである。仲の良い企業を案件化したいというのは人情として分かるが、仲の良さが判断を狂わせることがある。買収後の処遇やキックバックなどの「握り」など、駐在員と本社との利益相反にも留意が必要だ。
これまでの失敗事例と海外M&Aに対する新しい流れを見るに、心すべき3カ条は次のようになるだろう。
1.入札案件を避ける(十分なDDと交渉の確保)
2.出物を待つのではなく、プロアクティブに仕掛ける
3.情報入手にコストをかける
ただし、いくら意中の企業を買収できたとしても、プロ経営者を派遣できるのか、という問題は残る。自社の社員育成システムの中で、「考え抜く、対話する、解を見出す、判断する、周知・浸透させる」というスキルセットが身に付けられると自信を持って言える企業がどれほどあるだろうか。日本のサラリーマン社会、就活、受験も含めて、日本の教育スタイルは、「模倣する、暗記する、ミスしない」というものである。プロ人材の育成には程遠いと言わざるをえない。
残念ながら、海外M&Aにおける苦行はまだまだ続くであろう。だからこそ私のようなアドバイザーの存在意義があるのだ。
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