2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年10月19日

 9月15日付のウォール・ストリート・ジャーナル紙の社説は、中国が半導体など機微技術を扱う米企業の買収を試みていることに対し、国家安全保障に関する企業については、審査をより厳しくすべきであると警笛を鳴らしています。社説の要旨は以下の通りです。

(iStock.com/tnotn/Titova Elena/Goddard_Photography)

 9月13日、米国への外国投資委員会(CFIUS)は、中国政府による米国企業(ラティス・セミコンダクター社)の買収計画を阻止した。ラティス社は軍事利用が可能な先進的半導体のメーカーとして知られている。買収を試みていた投資会社キャニオン・ブリッジ・キャピタル・パートナーズは、中国の政府機関が出資している投資会社で、CFIUSが買収を承認しなかった後もこの件から身を引いていない。

 中国側は本件を、トランプ政権による保護主義の事例として批判材料にしたがっているが、間違いである。ラティス買収阻止は正当な判断である。中国への技術売却事案などはより厳しい規制が必要である。

 オバマ政権の2017年1月の報告書によると、中国は、世界の半導体産業の支配を目指していて、中国市場へのアクセスの見返りに、海外の半導体メーカーに、製造拠点の中国移転やジョイントベンチャーのパートナーたる中国企業への技術移転を要求している。

 先月、トランプ政権は1974年の通商法301条に基づきこれらについての調査を開始した。中国が知的財産を米国から一方的に窃取しているのは間違いなく、ハッキングや伝統的なスパイを使って米企業の機密を盗んでいる。2015年のFBIの調査によれば、世界の経済スパイ事案の95%は中国に責任があり、その件数は1年で56%も増えていた。

 中国が半導体技術を入手する(生産拠点の移転、ジョイントベンチャーによる技術移転に次ぐ)第3の方法が米企業買収であり、CFIUSがこれを監視している。彼らは買収案件が国家安全保障にかかわると判断した場合に限り、その計画を阻止することができるが、その件数は上昇傾向にある。オバマ政権は2016年12月にも、ドイツの半導体製造大手であるアイクストロン社を中国のファンドが買収するのを阻止している。

 ラティスの技術は、数年前から既に中国に狙われていた。2004年の時点で、ラティスは中国に違法輸出をしたとして56万ドルの罰金を科されているし、2012年にはラティスの半導体を密輸しようとした中国人2人をFBIが捕まえた。

 中国は、ラティスが有するミサイルの誘導やレーダーの半導体として使われるFPGA技術を欲している。米軍もラティスから半導体を購入しており、同社が買収されると米軍の機微技術が中国に流れる可能性がある。

 ラティス買収が阻止されたことは、CFIUSが目的通りに機能していることを示している。だが、機微技術を取得しようという中国の努力を考えれば、更なる対応が必要である。米国防省の報告によると、中国企業はCFIUSに見つからない形で、機微技術を扱う米企業に投資している。例えば、中国企業は、米国防省の研究助成を受けているスタートアップ企業にも投資しているようだ。

 中国の産業政策の規模の大きさや秘匿性、更には知的財産窃取の前科などを考えれば、特別な警戒は必要である。中国は略奪行為には政治的結果を伴うことを理解すべきであり、ラティス買収阻止はその警告として受け取るべきである。

出 典:Wall Street Journal ‘The Lattice Warning to China’ (September 15, 2017)
https://www.wsj.com/articles/the-lattice-warning-to-china-1505431750


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