東大教授 浜野保樹のメディア対談録

2010年10月16日

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浜野保樹 (はまの・やすき)

東京大学大学院新領域創成科学研究科教授

1951年生まれ。工学博士。コンテンツ産業や制作に関する研究開発に従事する。主な著書に『大系 黒澤明』(講談社)『偽りの民主主義』(角川書店)『表現のビジネス』(東京大学出版会)などがある。(財)黒澤明文化振興財団理事、文化庁メディア芸術祭運営委員ほか。

 アメリカはそれ自体、巨大なる歌謡曲製造工場だったのに、極地ヒットばかり。
これの理由は、問いませんよ。

 でもそこに、メディアのデジタル化がきた。携帯、スマートフォン、パソコン、等々。
それは表現を多様化したと言える半面、抜きん出る作品を生みにくくしたともいえる。

 どうしてかって言ったらいまの曲は「サビ出」(サビから入ること)で作る、短く終える、音の複雑さを追求しないで、音域表現をシンプルにする、そして高音のボーカル。これが当代の要諦ですよ。だからみんな似てくる。

 メッセージ・ソングなんて、ほとんどない。

 これだけデフレ、不景気、失業、年金不安とあって、「カネが欲しいんだ、オレは」って歌、なんで出てこない。

 ビートルズは、カヴァー曲だったけど、「Money, that's what I want」(1959)て歌った。「Can't buy me love」(1964)とも。

 「歌は世につれ、世は歌につれ」とは言うが、それは歌の「詞」のこと。時代をとらえるのは歌詞ですよ。その歌詞が、なんで自分から3メートル四方の話ばっかりなの。

 だから作品に内在的な問題があると、わたしは思います。

大人マーケット、せっせと耕す

石坂 それからレコード会社の問題。四半期決算体制になって、その都度収益を挙げなきゃならないんだけど、この時間軸がクリエイティビティを育てるもっと長い時間感覚と合わない。と、そういうことも起こってる。時間をかけられない、ってことです。

 一方リスナーの側。このごろ、アルバム丸ごと聴かなくていいって人がいる。アンケート取ったら女子高生で、「1枚アルバム買っても、わたしは3曲しか聞かない。あとはそのまま」っていう子がいました。

 そういう現象が確かにある。

 でももう一方、人口の高齢化が進んでいて、この先10年、平均年齢は2歳半、まだ伸びるんだそうです。その人たちに聞くと、興味がある項目に、「食」なんかと並んで「音楽」が出てくる。
音楽は、やはり手軽で、しかも廉価な楽しみであることに変わりはない。

 日本の音楽産業が、シングルに限ってはデジタル化、無形化していく。

 でも海外版図の拡大、国内流通の革新とならんで、大人マーケットの深耕が、可能になる。そこに、音楽ビジネスを探求していく余地がまだあるとわたしは思ってます。

 「CDか、デジタルか」という問いは、もうありません。共生です、双方の。

 40~64歳の25歳ゾーンに、4280万人いる。もしこの人たちの1割、428万人が、ムシのいい話ですが1年にアルバム2枚買ってくれると、856万枚だから、約200億円の売り上げになります。活路は見いだせると思います。

 例を挙げると、徳永英明の「VOCALIST」は女性歌手の名曲をカヴァーしてもう4枚出てますが、合計で550万枚くらい売れています。

 日本のトップアーティスト、スーパースターたちが、ちょうど40歳以上になっています。大人マーケットが広がるのは、本格的にはこれからでしょうね。だから、耕し甲斐はある。可処分所得と「可処分時間」が両方ある人たちに、どう売っていくか、です。

浜野 生まれ変わっても音楽ビジネスやりたいですか。

石坂 うーん、なんかほかにも(笑)…。

浜野 例えば?

石坂 新聞記者いいな。

浜野 新聞ビジネスの将来も危ういと言われていますが。

石坂 あ、そうかあ(笑)。食いもの屋も食中毒出しちゃうとまずいしな。ちょっと考えますよ。

 
(構成・谷口智彦)

石坂 敬一(いしざか・けいいち)
ユニバーサル ミュージック合同会社会長。
慶應義塾大学卒業後に入社した東芝音楽工業株式会社で、ビートルズやピンク・フロイド等、洋楽アーティストの担当ディレクターとなる。英語の原題を大胆な 日本語訳にアレンジしたり、音楽批評家と連携してリスナーに音楽の理論的土壌を提供したりと、日本の音楽シーンを改革しヒットに結びつけ、70~80年代 にかけて洋楽ブームを巻き起こした。
邦楽アーティストとの親交も知られており、RCサクセションを率いた忌野清志郎をはじめ自社に移籍させたBOØWYや矢沢永吉、松任谷由実など、人脈は幅広い。
2007年からは日本レコード協会会長も務め、若年層等に対する著作権教育と著作権意識の啓発に貢献、2009年には藍綬褒章を受章した。

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