2024年11月21日(木)

パラアスリート~越えてきた壁の数だけ強くなれた

2017年11月3日

女性がいてもいいはずだけど……

 2016年リオデジャネイロ・パラリンピックで銅メダルを獲得したウィルチェアーラグビー日本代表は、2020年の東京大会に向け、元アメリカ、カナダの代表監督を務めたケビン・オアー氏をヘッドコーチに招聘し、日本代表の強化と選手育成に乗り出した。

 その新生日本代表の選考合宿に参加するよう倉橋に声が掛かった。

 「日本代表を目指してはいたんです。でも、あまり試合にも出ていないのに、選考合宿に呼ばれるなんて、私のどこを見て選んでくれたんだろうと思っていたのですが、呼ばれたからには頑張ろうと思っていました」

 ケビン・オアー監督は新生ジャパンの国内初陣となったジャパンパラ競技大会(2017年5月開催)のおり、倉橋を選んだ理由を「センスの良さを評価した」と語っている。

 倉橋は障害の重いクラスの選手で主な役割はディフェンスにある。守備用『ラグ車』の前部には大きめのバンパーが装着されていて、これで相手チームのハイポインターの動きを止めることが使命だ。ゲームの展開を先読みして、コースを押さえたり、走りこむ相手選手にコンタクトして動きを封じ込む。障害が重いだけに常に先を読んだプレーが求められる大切な役割なのである。

 特筆すべきポイントは、

――コート上の4選手の持ち点の合計は8.0点までとされている。ただし、女性選手が加わる場合には1名につき持ち点の合計から0.5点がマイナスとなる。それだけに女性選手の存在は大きい。――

 と記した点にあり、倉橋が加わることによってコート上の4選手の合計が8.5点までとなり、日本代表の優位性が増すということである。

 「初の日本代表戦となった3月に行われたカナダ遠征(2017 Vancouver Invitational) や5月のUSA遠征(Tri Nations Wheelchair Rugby Invitational)までは、日本代表に選ばれたとか、特別な思いはなく試合に出られることの楽しさしか感じなかったのですが、国内デビュー戦となったジャパンパラ競技大会からは、もっとできるんじゃないかと高みを目指す気持ちが沸いてきました」

 「ジャパンパラで記者の方々に囲まれましたが、日本代表初の女性選手だからとか、珍しいからという理由でインタビューを求められるっておかしいと思っていました。いいプレーをしてインタビューを受けるならいいのですが、そうではありません。私が女だからです。男女混合の競技なので女性がいてもいいはずです。そう思ったら余計にがんばろうと思いました」

 倉橋自身、記者たちに囲まれ質問を受けるまでは、あまり女性であることを気にしたことがなかった。しかし、質問を受けることによって、改めて女性が自分ひとりであることを意識したという。

 「ウィルチェアーラグビーは女性には縁遠い競技だと思われています。写真を見ても男性ばかりだし、激しいし、気軽には始めにくいですよね。いま国内に3人の女性プレーヤがいるのですが、『もっと増えるといいね』という話をしています。年末に海外で女性だけの大会が開かれるので、3人で参加してきます。女性選手をもっと増やして車いすバスケみたいに、男女分かれて試合をしたり、健常者も入って一緒に楽しむくらいに競技が盛り上がってほしいので、その意味では私が日本代表にいる意味はあると思っています」

 夢は、競技人口を増やすことと、自分が頑張ることによって周りの人が喜んでくれたり、元気が出たと言われたり、力を与えられる存在になることと語っている。

 そして、2020年の東京大会に向けて「生き残れるように頑張りたい」と意欲を見せている。

 倉橋は現在、(株)商船三井の人事部ダイバーシティ・健康経営推進室に勤務して、仕事と練習に励んでいる。そして、いつかは夢だった教育の現場に関わっていきたいとも考えているようだ。

  
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