ウィルチェアーラグビーの魅力は競技用の車いす(通称『ラグ車』)による激しいコンタクトプレーにある。特にハイポインターと呼ばれる選手同士がコンタクトする際の音は何とも形容しがたい。
その衝撃を裏付けるように選手たちの『ラグ車』はボコボコに凹んでいる。転倒やパンクなどは日常茶飯事で、とても華麗などという言葉が使える競技ではない。
しかし、その武骨なハードさと緻密な戦略を併せ持っているところが選手たちの誇りなのである。
1チームは4名の選手で構成される。選手は障害のレベルによって0.5点〜3.5点(0.5点きざみで数字が大きいほど障がいが軽い)までの7クラスに分類され、コート上の4選手の持ち点の合計は8.0点までとされている。ただし、女性選手が加わる場合には1名につき持ち点の合計から0.5点がマイナスとなる。それだけに女性選手の存在は大きい。
ウィルチェアーラグビー日本代表はリオ・パラリンピックで銅メダルを獲得し、俄然注目度を高めている。2017年、そのウィルチェアーラグビーに初の女性日本代表が生まれた。
「疲れればよく寝るはず」、体操を始める
倉橋香衣(くらはし かえ)、兵庫県生まれ。
両親と姉、妹の5人家族で、3姉妹の真ん中で元気いっぱいに育った。あまりにも元気でなかなか寝ないために体操クラブに通うことになった。疲れさせればよく寝るだろうという母親のねらいでもあり、願いでもあった。
それ以前に他の習い事にもチャレンジしたが、どれも長続きせず、疲れて寝ることもないために断念。唯一、体操だけは楽しかったらしく長く続き、夜もおとなしく眠ったようだ。
「姉妹のなかで体操をしていたのは私だけで、その私も体操は好きなのですが、怖がりなのであまり練習熱心ではなく先生によく叱られていました。でも、出来なかったことができるようになることが嬉しかった」
一番得意な種目は平均台で、一番怖かった練習も平均台だった。
倉橋は中学、高校でも体操を続けた。卒業後は教師の道を志し埼玉県にある文教大学に進学し、トランポリン部に入部した。
「ラクロスとか大学生らしいスポーツもやってみたいなとは思ったのですが、やっぱり『回りたい』という理由でトランポリンを選びました。体操クラブでも少しやったことがあったのですが、高く飛ぶのが怖かったんです。でも、怖いけど、回りたいから、やってみるかと思って始めました」
入ってみると体操とは回り方が異なり、上手く飛べないことの連続だった。「早く上手くなって高得点を取りたい」と練習を重ねるうちにトランポリンにはまっていった。