英国のEU離脱は、北アイルランド和平の基盤を崩し、北アイルランドとアイルランド間の国境管理の厳格化を招くので、同地域の国境問題が離脱交渉の大きな障害になってきた、と11月25日付の英エコノミスト誌が報じています。要旨は以下の通りです。
英国のEU離脱決定から約18カ月が経つが、北アイルランドをEU単一市場と関税同盟から離脱させつつ、北アイルランド・アイルランド間の検問なき国境を維持することは、どう考えても難しい。
英国は来月のEUサミットで承認を得て通商協議を始めるまで国境問題に取り組まないつもりだったが、アイルランド政府は英国が厳格な国境管理を回避する解決策を提示できなければ、拒否権を発動すると述べ、国境問題は突如、離脱協議の最大の障害となった。メイ政権が北アイルランドの民主統一党(英本土との絆に執着)に支えられていることも、事態を面倒にしている。また、北アイルランド自体、1月から自治政府がない危うい状態が続いている。
アイルランドはEU加盟によって英国依存の経済から解放され、英国との関係も改善することができた。英国のEU離脱はアイルランドの繁栄を脅かすだけでなく、英アイルランド両国を交渉で対立する立場にしてしまった。ただ、少なくともEU加盟国のアイルランドは、難局を乗り切る上で外交的、経済的にましな立場にある。
一方、北アイルランドはもっと切実な懸念に苦しんでいる。1998年の聖金曜日の和平合意により、北アイルランド人は英国籍かアイルランド国籍、あるいは両方を取得できるようになり、さらに、検問がなくなって国境地域は通商で大きな恩恵を受けるようになった。英EU離脱はこれら全てを掘り崩してしまう。中でも、経済は深刻な打撃を受けるだろう。また、この1年で自警団や犯罪組織の活動が大幅に増加し、英EU離脱による事態の更なる悪化が懸念されている。
アイルランドは、逸早く国境問題を英EU離脱協議の優先課題にするようEU諸国を説得し、以来その立場を維持している。むしろバラッカー首相の課題は、強く出過ぎるのを避けることだろう。
アイルランドは、英政治家たちの発言にうんざりし、自らの考えを推し進めつつある。望みは、検問の必要を減らすべく、何らかの形で北アイルランドがEUの規制・関税制度の中に留まれるよう、メイが書面で請け合ってくれることだ。また、アイルランド政府とEUは、今後の手本にすべく、電力などアイルランドと北アイルランドが既に共同管理している分野を調査している。
一部の英国人にとっては、この種の外国の干渉がそもそも彼らをEU離脱へと駆り立てたと言える。英国の懸念はもっともで、アイルランドは北アイルランドへの意図などないと言うが、北アイルランドとアイルランドを結ぶ動きは、北アイルランドが英本土と不可避的に疎遠になることを意味する。英国は、北アイルランドの人々の英国かアイルランドかの二者択一の国籍選択の必要性を排除して過去の亡霊を葬ってくれたが、EU離脱はその亡霊を起こしてしまった。
出 典:Economist ‘Brexit explodes the ambiguity that underpins Northern Ireland’ (November 25, 2017)
https://www.economist.com/news/europe/21731635-british-voters-forgot-peace-deal-depended-both-sides-being-part-european