2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年1月12日

 上記は、10月の共産党大会後の中国の対台湾政策は、台湾人の多くを中国に取り込むための“統一戦線工作”の色彩を強めつつある、という台北タイムズの社説です。

 共産党大会開催までは、習近平の政治報告に「中台統一のタイムテーブル」や「武力統一」などという強硬論が現れるのではないかとの予測が米国や台湾の専門家の間で行なわれたことがあります。

 しかし、実際には、習近平自身その政治報告の中では「台湾独立勢力によるいかなる分裂活動もこれを打破する意思のみならず、能力もある」という趣旨の発言を行いつつも、「武力による統一」という強硬論ではなく、「両岸は一つの家族」という考え方に立って、「大陸における発展の機会を台湾同胞と分かち合う」という類の“統一戦線工作”を強調しました。

 中台間で「両岸は一つの家族」というスローガンを中国は強調しますが、今の台湾の人々から見ると、たとえかつての祖国や祖先が共通のものであったとしても、自由や人権無視の中国大陸は決定的魅力に欠けます。そのような台湾人の自然な反応を中国共産党幹部は十分に知らないか、あるいは知ろうとしないのが実態です。

 台湾にとって、貿易投資の最大の相手は中国であり、台湾ビジネス界にとって中国の重要性は変わっていません。しかし、その中国と統一されることを希望するか否かということになれば、話は全く別です。特に、台湾では、一党独裁体制下で蒋介石国民党政権の戒厳令の時期を経験した記憶が強く残っています。

 台北タイムズが引用した台湾人の人権活動家である李明哲の政治的逮捕の一件については、不明な点が多いのですが、中国において「国家政権転覆罪」により懲役5年を言い渡されました。このケースなどは、あらためて中国と台湾の基本的制度の違いを台湾人に認識させた直近のケースです。

 他方、習近平自身、かつて台湾の対岸の福建省で十数年間にわたり省の党書記などの地位についており、自分こそ台湾通であるとの自負が強いにちがいありません。中国共産党指導者として、さしたる実績もなく、毛沢東、鄧小平に次ぐ指導者の地位に就きました。実際に目に見えた「実績」をあげるとすれば、台湾を“統一戦線”により、中国との統一か、あるいはそれに近い状態に追い込むことでしょう。

 「中華民族の偉大な復興」というスローガンは、習近平にとっては、何よりも、台湾問題で見るべき成果を上げなければならないという課題を意味するものと思われます。

  
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