ナイ教授は、トランプ大統領の登場により米国のソフトパワーが大きく下がっていると指摘し、すべての分野でトランプは米国の魅力的な政策をひっくり返していると批判します。他方で、トランプの後には米国のソフトパワーは確実に回復するだろうと述べ、米国の将来に楽観的見方をしています。これらの指摘は驚くことではありません。
ナイ教授は、次のような重要な点も議論しています。
(1)アジェンダ・セッティング能力もソフトパワーである。
(2)財団や大学等非政府部門が育むソフトパワーはこれから益々重要になる。
(3)協力には程度の差があることを見過ごしてはならない。協力の程度は魅力や反感により影響を受ける。更に国のソフトパワーは非政府アクターにも影響を及ぼす。
しかし、今、米国の「パワー」は、もう一つ深刻な問題に直面しているのではないでしょうか。それは「信頼性のギャップ」です。パワーが信頼性を持つためには、言葉と行動の間に隙間があってはなりません。トランプが出した重要なレッドラインは、破られそうになっています。放置すれば、米国のパワーは信頼されなくなり、張子の虎になります。対北朝鮮ブラッディ・ノーズ作戦論者は信頼性のギャップを埋めるためにシリアで行った巡航ミサイル攻撃のようなことを考えているのかもしれません。「米国の決意を示すために」必要だとの議論はそのように聞こえます。その問題意識は良く理解できます。しかし、問題点は2つあります。1つは、北朝鮮が報復してくるかどうかで、2つ目は、北朝鮮が核兵器を持っていることです。シリアの場合、この2つの問題は心配する必要はありませんでした。トランプ政権発足後1年、米国の「パワー」は信頼性のギャップという難しい問題を抱えています。
ナイ教授が言及したソフトパワー30という研究団体は、7の指標に基づき毎年ソフトパワー・ランキングという興味深い報告を出しています。その指標とは、(1)デジタル化、(2)文化、(3)エンタープライズ(ビジネス環境、イノベーション力等)、(4)教育、(5)世界との係わり(外交ネットワーク力、ODA支援等)、(6)政府(自由、人権、民主主義へのコミットメント、政府機構の質等)、(7)世論調査の結果です。2017のランキングでは1位がフランスで(マクロン効果)、それに英国、米国、ドイツ、カナダ、日本(6位)と続いています(中露は夫々25位、26位)。日本については、好意的に評価されていますが、男女平等のスコアが低い、報道の自由についても相対的に低い、政府のデジタル化等ではトップ10に入っていない等が指摘されています。提案としては、世界で尊敬されてきた文化力を怠らないこと、公共政策とデジタル外交の分野を強化することは日本の地域・グローバルのパワーとしての立場を強めることにつながると述べています。
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。