2024年4月21日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年4月18日

 上記の通り、トランプ政権は、中国による技術の強制移転と知的財産の侵害を対中報復措置の根拠としている。4月3日に米国は、知的財産の侵害を理由に、1300品目500億ドル相当の中国製品に25%の関税上乗せを表明、これに対し中国側は翌日、大豆、自動車、航空機など米製品500億ドル相当への同じく25%の関税上乗せを表明、さらに、6日には米国がそれに対抗して1000億ドル相当の中国製品への追加関税の検討を表明するなど、貿易摩擦が激化している。

 中国による技術の強制移転と知的財産の侵害が深刻な問題であるというのは、トランプ政権の指摘する通りであり、この点に関しては、異論はない。EUCCC(EUの中国商工会議所)も「メイド・イン・チャイナ2025」について懸念を示すレポートを出している。

 しかし、報復関税によって対抗するのが適切かどうか大きな疑問がある。USTRの上記発表も挙げている、WTOの紛争解決メカニズムを用いるのが本来とるべき道であろう。それには、西側が足並みを揃えて中国に対抗することが肝要である。しかし、トランプ政権は、多国間主義ではなく一国主義を優先させている。

 最近、中国の行動がWTOの枠をあまりにも大きく逸脱しており、通常の手段では是正し得ないとしてトランプ政権の行動を擁護する議論も少しずつ増えているようである。例えば、著名なジャーナリストであるファリード・ザカリアは、4月5日付けワシントン・ポスト紙掲載のコラム‘Trump is right: China’s a trade cheat’において、そういう主張をしている。仮にそうした考え方を認めたとしても、トランプ政権が技術や知的財産の保護と並べて貿易赤字を無くすことに固執している点が、話を複雑にしている。大きなこぶしを振り上げて徐々にそれを引っ込めるのがトランプの交渉術であるが、貿易赤字を認める代わりに技術の強制移転と知的財産の侵害をやめさせるという妥協が成り立つとも思われない。トランプ政権は、多国間主義を嫌うあまりTPPから離脱するなどして、知的財産の窃取等を含む、中国の不公正な貿易慣行を牽制する大きな機会を逸している。対米貿易黒字を抱える日本も槍玉に上げられており、慎重な対応が求められている。

 このまま事態が進行すれば、米中貿易摩擦が激化する一方で、肝心の中国による技術の強制移転や知的財産の侵害等はなくならない、ということになりかねない。そして、その間、世界経済は、米中貿易摩擦による混乱を覚悟しなければならないと思われる。

  
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