2024年4月26日(金)

イノベーションの風を読む

2018年5月7日

イノベーションを生むエコシステム

 自動車産業は、EVと自律運転という技術革新によって大きく変化しようとしている。そして、ウーバーなどのスタートアップによる、新しいモビリティーサービスの出現によって、そのビジネスモデルにも破壊的イノベーションが迫っている。トヨタだけでなく、その危機を認識した多くの自動車メーカーは、様々なモビリティサービスのスタートアップと、投資や買収によって協力関係を築こうとしている。

 イノベーションはスタートアップが牽引する。スタートアップは、スタートアップエコシステムから生まれる。シリコンバレーは、そのエコシステムによって、イノベーションによってもたらされる価値を独占してきた。日本でも、イノベーションを牽引するスタートアップを生むエコシステムを育てる必要がある。

スタートアップエコシステム

 『グローバルスタートアップエコシステムレポート2018』は、100万社以上の企業と約100の地域のスタートアップエコシステムに関するデータ、そして10000人以上のスタートアップ経営者への調査データに基づいて、次のような指標から、世界24カ国の43都市のスタートアップエコシステムを評価し、指標ごとのランク付けを行っている。

 株式上場や多額の金額で買収されるなどのスタートアップの経済的な成果、資金調達、自国および海外の市場へのリーチ、他のエコシステムとのつながり、資金や人材を惹きつける魅力、蓄積された価値と多様性、人材(ソフトウェアエンジニア)、起業家のマインドやDNA(グロバール展開の意欲と戦略)、ローカルな関係の強さやコミュニティの質、スタートアップの支援環境やプログラムやイベント

 レポートは、2017年にグローバルで1400億ドル以上がスタートアップに投資されたと報告している。言語の問題や現地のパートナーが見つからないなどの理由からか、東京やソウルなどの都市は調査対象になっていないが、ジャパンベンチャーリサーチ発行の『Japan Startup Finance 2017』によると、2017年の日本におけるスタートアップの調達額は過去10年で最高額の2791億円(前年比+21.1%)となっている。

 日本のスタートアップエコシステムは、まだ小規模で未成熟だといっていいだろう。しかし、インターネット革命の第三の波に乗ることによって、小規模なエコシステムが、特定の産業分野のトップ集団に入るチャンスがあるという。たとえば、ドイツのフランクフルトは、経済・金融分野での強みをテコにして、フィンテックにフォーカスしたエコシステムを構築しようとしている。

 ハードウェア・アズ・ア・サービスにフォーカスすることによって、日本のスタートアップエコシステムが、グローバルレベルで競争上の優位性を獲得できるのではないだろうか。コンシューマエレクトロニクスのメーカーは、そのハードウェア製品をサービス化しようとするスタートアップを支援する。金銭的な支援だけでなく、スタートアップがハードウェア製品を利用できるAPIや環境を提供する。メーカーは、そのためのハードウェアを再定義することで製品のイノベーション(再発明)が可能になるかもしれない。

 以下、レポート中の「インターネットの第三の波」の部分を翻訳して紹介する。

直近の起業家革命は、ほぼすべてがインターネットの基盤上に構築され、情報通信の技術セクターによってドライブされたものだ。これらの革命によってもたらされる価値は、インターネット自身が頼りどころにしている、シリコンベースのマイクロチップの世界屈指の生産地域であるシリコンバレーによって独占されてきた。

しかし、現在と未来の起業家革命は、情報技術とインターネットにフォーカスしたビジネスだけでなく、多様なビジネスを生む可能性を持っている。1990年代初頭から2000年代にかけて、有名なテクノロジー企業は、インターネット検索、電子メール、ソーシャルメディア、ビデオなどの、ウェブやモバイル上で完結するビジネスを構築してきたが、今後の革新的な技術は「現実世界」を変革するだろう。それらは人々のウェブ上での行動だけでなく、現実世界での行動も変え、輸送、医療、重工業、農業、さらに多くの分野の現実世界の産業が影響を受けることになるだろう。起業家であり投資家でもあるスティーブ・ケースは、これをインターネット革命の第三の波と呼んでいる。この革命の最初の波は、スティーブ・ケースが創業したAOLのような、インターネットの基礎を築くことに貢献した企業によって牽引された。第二の波は、ソーシャルメディア、インターネット検索、そして電子メールをウェブで構築したグーグルやフェイスブックなどの企業が主導し、スナップチャットのような企業がスマートフォンに特化したアプリをつくった。第三の波は、これらの活動と経験を「現実世界」の特定の産業領域に持ち込むだろう。

  
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