2023年2月6日(月)

青山学院大学シンギュラリティ研究所 講演会

2018年5月20日

»著者プロフィール

自動運転の普及でオフィスビルの構造が変わる

 それでは自動運転のメリットとはなんでしょうか。まずクルマの稼働率ですね。私が住んでいるアメリカでは家から仕事場までクルマで行って、仕事を終えて帰ってくるわけです。この間の稼働率はたかだか5%ぐらいです。ほとんどの場合、クルマは駐車しているだけです。

 これがハチや蟻のような動きをするAI自動車なら必要な時に、必要な場所にクルマを手配して、稼働率は50〜60%ぐらいまで上げられます。稼働率は10倍になるわけです。社会全体から言えば非常に効率が良くなります。

 さらに駐車場問題です。アメリカの場合はオフィスビルを建てる場合は、そのビルで働く人の70%分の駐車場を作りなさいと言う法律があります。そうしないと駐車場不足になってしまうのです。私も実感として、オフィスの30〜40%ぐらいの面積が駐車場にさかれていると思います。これはすごく無駄なスペースです。でも自動運転の時代になれば、必要な時にクルマを呼んで、用事が済めばクルマは自動的に帰って行く。これなら駐車場は不要になります。

 これで都市部の設計が根本的に変わります。従来アメリカでビルを建てる場合は上に10階建て、地下4階分を駐車場という具合に割り振っていました。これが最近は地下は作らない、全て地上でまかなうビルが建てられています。なぜなら、ビルの寿命は50年以上ありますから、近い将来、自動運転の時代が到来して駐車場が不要なるわけです。この時に駐車場をオフィスにコンバートしたい。もし、地下が4階あっても、こんなところで誰も働きたくないでしょう。だから駐車スペースも地上に作っておくという考え方です。

アメリカでは渋滞で年間13兆円の損失

 あとは渋滞ですね。渋滞のストレスと損失は大変なものです。アメリカで言えば年間13兆円が渋滞のために消えています。ガソリン代、ドライバーが失っている時間的損失、あれこれ合計すると13兆円の損失になります。1人あたりで計算すると年間250時間の損失です。働いている時間を年間2500時間とするとその1/10が渋滞のために失われているのです。これが自動運転の時代になると無駄なコストがなくなります。

 例えば全部のクルマが自動運転なら、信号が不要になります。全部のクルマが一気に自動運転になるのか、それとも一部の場所だけで自動運転が許されるゾーン方式になるのか、どちらか分かりませんが、私は直感的にゾーン方式になると思います。各国で色々な議論がなされていますが、ゾーンの方がスムーズな移行がおこなえると思います。

 タクシー会社の場合、自動運転になれば人件費が不要になります。タクシー会社の75%が人件費と言われているので、これは見逃せません。そう思いがちですが私は大事だとは思っていません。なぜなら、人が移動に使う手段として、タクシーは全体の0.8%でしかないからです。タクシー業界の売上は年間2兆円で、その1/4が削減できるなら小さい話です。

 問題はタクシーではなく自家用車を全部、自動運転化することです。こちらは移動手段の60%を占めています。これを自動運転化、というか自動運転サービスに置きかえる。

 このインパクトはかなり大きいです。Uberが自動運転車を出したからタクシー会社がつぶれるという話ではなく、クルマを所有する時代から、借りる時代に変わるのです。20年では無理かもしれませんが、50年後は確実です。これはトヨタやホンダにとって脅威になる話です。自動車は売る時代ではなく、自動運転のサービス会社が最大のパイを掴むことになります。

自動運転実用化の前に日本でやるべきこと

 我々が初めて携帯電話を見た時に思ったのは、ケーブルがなくても、どこからでも電話が掛けられるということです。でも、今のスマホはそれとは全く違う用途に使われています。PCの代わりであり、SNSを通じて出会いがあって結婚までしてしまうツールに進化しています。自動運転もそれと同じです。人間の代わりにクルマを運転してくれるだけでなく、ビジネスモデルや社会構造を根本から変える力を持っています。

 冒頭でも触れましたがトヨタの「e・Palette Concept」は自動運転化された商用車が用途に応じて社会インフラとして機能するシステムの提案です。これはハードウエアではなくサービスの話ですが、私の会社が作っているカーナビの場合では、カーナビは不要になってUberアプリのようなものが、個人のスマホにインストールされ、そこに目的地を入力するだけでよくなります。クルマが迎えに来て、送ってくれる。これがクルマと人間のかかわりになります。オプションとして相乗りは嫌だとか、仕事をするのでデスクが欲しいとか、Wi-Fiが使いたいとか。または相乗りで構わないので料金が安い方がいいとか、ルートを迂回してもいいよ、という条件なら相乗りバスのような車両が来て、料金は1/10になるとか。

 これらのサービスを実現させるためには、自動運転の時代を待つ必要はなく、日本の場合なら過疎地に注目します。このような地域では、最初にローカル線がなくなります。人口が減ると1時間に1本が1日2本になる。これだと不便すぎて使えないので廃線になってしまう。村民全員がクルマで移動できればいいのですが、高齢化が進んで運転できない人も出てくる。その人たちの移動手段がなくなってくる。そこにバスを走らせる。自動運転でなくても構わないんです。ただし、バス停に止まるのではなくスマホアプリで行き先を指定すればバスが迎えにきてくれ、目的地まで行ける。このシステムであれば自動運転がなくても実現できます。ローカル線の代わりにドア・ツー・ドアのバスシステムを作ればいいんです。

 先日、ホリエモンと話していて生まれたのがパーソナルモビリティの活用です。セグウェイのような1人乗りのコンパクトな移動支援機器です。これを椅子タイプにして、自宅からバスに乗るまでの移動手段にする。バスにはパーソナルモビリティごと乗り込む。ここではクルマが入れ子構造になるわけです。目的地に到着したら、最後の数マイルは椅子のまま移動する。これなら自分専用のパーソナルな椅子が確保されて、Uberの車内が汚れているという問題にも対処できます。人間はパーソナル空間を大切にしたい生き物なので、1人1台のパーソナルモビリティが欲しくなります。冷蔵庫も付けてビールを飲めるようにするとか。移動する椅子はスマホを超えるビジネスに成長する可能性があります。


新着記事

»もっと見る