2024年4月19日(金)

青山学院大学シンギュラリティ研究所 講演会

2018年5月20日

クルマを所有する時代の終焉

 これまでいろいろな可能性が出て来ましたが、そろそろまとめに入ろうと思います。自動運転が普及すると、自家用車を持つ理由がなくなります。私の会社で若い人たちは誰もクルマを持っていません。40代ならチラホラいますが、30代、20代では1人もいません。免許証は持っていますが自家用車は持たない。タクシーとバスの境界線は曖昧になって、なおかつその自動運転タクシーが自家用車の市場を食いにくる。

 今はなぜかUberとLyftしかありませんが、このままのわけはありません。まだまだチャンスはあります。それから駐車場が不要になるので、街の景色が変わります。今からビルを建てる人は真剣に考えておく必要があります。東京オリンピックではゾーン方式で自動運転車が走るようになると思います。これがゾーンとして広まっていく。その道路には信号がない。そしてオフィスには駐車場がない。

 街の問題がなければ20年後にはそんな世界が訪れると思います。東京のような大都市ではこれは困難です。建物の問題がありますから。中国であれば、何もない所に自動運転車専用の道路を中心とした街を作ることが可能ですから、実用化は早いかもしれません。日本は過疎化が進む地方都市を使えば実現可能だと思います。

Discussion

■参加者
ドイツでEVの開発をしています。徳島県の出身で、地元で88歳の老人が病院に行くための交通手段に困っています。自宅から病院まで行くためにスマホを使ってクルマを呼び出すのは困難なのでAmazonのダッシュボタンのようなものをインターフェイスに使うことを考えたのですが、中島さんはどんなものをお考えですか?

■中島聡氏
その考え方は素晴らしいじゃないですか、病院で診療が終わったら、医師か看護師がボタンを渡して、これ押したら病院まで行けるからと。用途に応じて行き先別のダッシュボタンを用意すればいいんです。スーパーマーケットに行くボタン、温泉に行くボタンなどを作りましょう。これでスマホは必要なくなります。

■参加者
昨年、NYでUberショックを受けました。しかし、日本ではUberが普及していませんが、これは法律が障壁になっています。法規制がパラダイムシフトの邪魔をしていると思うのですが、その辺りをどうお考えですか?

■中島聡氏
アメリカ人の場合は、法律は人のためにあるという発想です。法律を変えるためにまずやってみようと考えます。日本人は法律が絶対で、悪法でもそれに従うことを考えます。アメリカ人の場合はグレーゾーンがあればやってしまう。その結果、法律家が法律を変えざるを得なくなる。アメリカは州単位ですが、日本は中央集権的なところがあります。例えば州単位でマリファナが合法化されている。連邦政府では非合法ですが、州がどんどん合法化するので、結局、連邦政府でも合法化するかという流れになる。日本ではこのような事は起こりませんね。トップダウンの特区みたいなことはありますが、ボトムアップで特区を作れるようになるといいと思います。またはグレーゾーンを突いた企業をあまりいじめないようにして欲しいですね。

■参加者
週の半分は地方都市で過ごしていますが、幹線道路沿いの看板が派手で凄いです。これが自動運転になれば窓の外を見る必要がなく、看板も廃れてなくなることになるのでしょうか?

■中島聡氏
看板のことは考えたことありませんが、広告については押しつけられるものは拒絶されます。例えば、私はカフェラテが好きなので、もしUberかロボットタクシーに乗ってラテはいかがですかと勧められれば、飲もうと思ってしまいます。ここが重要なんですが、STARBUCKSに行きませんかではなく、ラテを飲みませんかと提案してくれるんです。それも私好みの砂糖1個入りで、2%ミルクで作ったデカフェのラテが用意されていて、スタバに着いたら、すぐに受け取れるようになっている。これが正しい広告の在り方だと思います。私にとっては、もう広告でなくサービスです。もちろん料金はUberの料金に含まれています。私は気にしていませんが、タリーズでなくスタバに行くことなったのは、私がUberに乗った瞬間にAIの中でオークションがスタートしているんです。こうなると看板は必要ありませんね。お腹が空いていれば、サンドイッチはいかがですかと提案してくれる。こんなサービスが受けられるなら、私なら個人情報を提供しても構わないと思っています。

■参加者
クルマを所有する理由がなくなるというロジックは明確で分かりやすいですが、ホントにそんなに簡単に転換が起こるのか。なにか割り切れないモヤモヤした部分が残るのですが、中島さんご自身でも納得できない部分ありませんか?

■中島聡氏
プレゼンの場合は分かりやすくするために極論を言うことが多いのですが、自動運転についてはそんなに誇張はありません。例えば馬社会から自動車社会へと転換するときに似ていると思います。過渡期においては全ての馬が自動車に置き換わるとは思っていなかった。しかし、ある時期を超えるとビジネスにはスケールが必要なので、ガラッと転換が起こります。クルマを買うよりも借りた方がいいと思う人が多数派になる時期が来ます。自分で運転するクルマは、富裕層が馬を所有するのと同じように贅沢品となり、実用品としての地位を失っていくのです。これは疑いのない事だと思っています。

■参加者
自動運転車だけのゾーンができるというシーンをなかなか想像できません。幹線道だけでも自動運転車ゾーンを作るにしても、地下を掘るのはコストの問題と掘る場所がなさそうに思えます。現行の道路を二階建てにしてもコンビニなどに荷物を搬入するためには、一般道に降りる必要があります。そう考えると人と自転車、ベビーカー、車イスと自動運転車がクロスオーバーする地点が出て来そうに思えます。このゾーン化に関して何か構想をお持ちですか?

■中島聡氏
ここは私も非常にもやもやした部分なんですが、特に東京はどうすればいいのかが問題です。やはり切り崩せそうな所から攻めるのがいいと思います。それが先ほど言った過疎の村なんですが、もう1つの方法としては期限を切って事に当たる。私は5年前からナカジマノミクスというの提唱しています。これは2013年に政治家が宣言して欲しかったのですが、オリンピックイヤーまでに第二東名高速道路は自動運転車しか走れませんよと宣言することです。そうすればトラックの運送会社は真剣に開発に取り組みますよ。トラックのハードウエアだけでなくビジネスモデルをどうするか。そんな進化圧を加えるのが政治家の仕事だと思います。

■参加者
最後にプログラマーの視点から、これからの勉強の仕方はどうあるべきでしょうか?

■中島聡氏
全ての人がプログラムを学ぶわけではありません。以前はMicrosoftのような企業がプログラマーを雇ってプログラムを作っていました。しかし、現在はAmazonのような流通業がソフトウエアを活用して小売りをおこなっています。これは典型的な例で、他にも多くの企業がソフトウエアを使いこなしています。例えば医療業界ならヘルスケアとか。まあ、ピントこないかもしれませんが。自分は文系だからソフトウエアは関係ないと思っていると必ず足元をすくわれます。優れたソフトウエアがあれば、その業界が変化します。文系であってもそれを無視することはできません。ですからソフトウエアについて学んでください。本日の講演を聞いて、皆さんが危機感を持つということが重要なんです。

青山学院大学 青山キャンパス
シンギュラリティ研究所開設記念
連続講演会&講義および懇親会
第3回 :飛躍的進化を遂げている中国電脳社会
講 師:柴 国強(上海立名智能科技有限公司 董事長)
日 時:2018年5月26日(土)13時開演

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