――トランプ大統領によってアメリカが、イギリスのEU離脱投票によってイギリスが分断されているのはよく耳にしますが、ドイツも同じような状況なんですね。
三好:まず、2010年のギリシャに端を発するユーロ危機で、メルケルはギリシャを救済する意向を表明した。本来、EU加盟国が財政危機に陥った場合、他国が救済する義務はありません。しかし、メルケルはギリシャ救済法を議会で通し、ドイツも資金を拠出した。この政策はドイツ国内で賛否両論を巻き起こした。反対派のなかで反ユーロを掲げていたグループと、ナショナリストグループが合流し結党したのが先のAfDなのです。そこに先の難民問題が追い打ちをかけドイツの分断を決定的にしました。
4期目のメルケル政権発足まで、選挙から約半年もかかってしまったのは、国民の間に妥協を許さない対立が生まれてしまったことが背景にはあると思います。
――ドイツの政局は日本のニュースではあまり報道されません。そもそもメルケル自身は、中道右派、左派で言えばどちらなのでしょうか? また、ドイツ統一後は大まかにどのような政局の流れだったのでしょうか?
三好:CDUは中道右派政党です。CDUはだいたい日本の自民党のような政党で、保守派から中道までと幅広い価値観の議員がいる。
また、戦後ドイツでは一党で過半数の議席を獲得することがほぼ不可能でした。従って、どの党とどの党が連立政権を組むかが大きな問題となってきました。 統一後の政権は、まずはじめの8年間は、中道右派のCDUのコール首相が政権の座に就きました。コール首相は、統一前に2期8年間、ドイツ統一を成し遂げた首相としての功績から統一後も含めると16年間に渡り政権を握り続けた。さすがに国民に飽きられて、その後は社会民主党(SPD)党首だったシュレーダーが首相になりました。しかし、シュレーダーは、福祉を削ったり、労働市場改革を行い、党内が分裂。2期目は全うできず、任期途中の05年に総選挙を行い、その結果与党の座はCDUに戻りました。この時、首相になったのがコール元首相の寵愛を受けていたメルケルで、CDUとCSU、SPDによる大連立政権が発足しました。
続く09年の選挙ではCDUとFDPの中道右派政権となり、13年は中道右派による連立では過半数が獲得できず、再び大連立政権が誕生した。そして昨年の選挙ではCDU・CSUが3たびSPDと連立政権を組むことになりました。
メルケル自身は、中道右派政党の党首ですが、最低賃金制の導入、同性婚の容認、徴兵制廃止といった左派の政策を取り入れています。バランス感覚に優れた政治家ですが、難民政策を含め、メルケルの左派的政策に反発を感じるCDUの支持者は、AfDへと流れています。AfDについて、日本では極右政党と報じられることがありますが、支持者に話を聞くと移民や難民を受け入れることに絶対反対、という排外主義的な人は少なく、例えば、経済難民は受け入れない、犯罪を犯した難民は送還する、といった厳格な移民・難民政策を求める人が多いのではないかと思います。
――4期目を迎えたメルケルですが、5期目、6期目への意欲を示しているのでしょうか?
三好:ドイツは日本と違い、首相に解散権がなく、基本的には4年間の任期を全うするので、よほどのことがない限りこのまま4期目は続くのではないでしょうか。テレビ番組のインタビューでメルケルは5期目に関しては明言を避けましたが、4期目で終わるという見方が有力です。実際に後継者に関しても、女性政治家のクランプ・カレンバウアーをCDUの幹事長の座に就かせ、次期首相として育てようとしているようですから。
――ドイツ政治は複雑ですね。最後に、ドイツ政治やドイツ人についてわかるお薦めの本や映画はありますか?
三好:映画では、今年公開された『はじめてのおもてなし』。難民を受け入れた家族が、そのことでドイツ人が普段思っている本音が明らかになるコメディで、ドイツ人の考え方がよくわかります。『帰ってきたヒトラー』は、随所にドイツ人へのインタビューが挿入されていて、ドイツ人の難民への考えがよくわかる映画ですね。
本で言えばメルケルに興味があるならば元時事通信の佐藤伸行さんの『世界最強の女帝 メルケルの謎』(文春新書)は新書で読みやすいと思います。そして私の本も手にとっていただけると幸いです。
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