2024年7月16日(火)

オトナの教養 週末の一冊

2018年7月6日

――小泉政権以降、憲法改正=9条改正論に再びなり、最近の世論調査では賛否が拮抗しています。たとえば改憲派の具体的な属性について特徴はありますか?

境家:改憲派の有権者の属性については新聞等で公表されている場合もありますが、我々研究者は個々人の回答データを場合によっては手に入れることができます。

 特徴としては、改憲派のピークは30~40代で、年齢が高くなるにつれ改憲派が少なくなる傾向があります。

 支持政党で言えば、自民党支持者に圧倒的に改憲派が多く、立憲民主党支持者には護憲志向。当たり前に聞こえるかもしれませんが、歴史的に見ると、与党支持者に改憲派が多く、第一野党支持者に護憲派が多い状況は常にみられるわけではない。たとえば、前原誠司代表が率いていた民主党は改憲を主張していましたが、この時期の民主党支持者の改憲派の割合は自民党支持者の改憲派の割合と同等か、多いくらいでした。また1970年代の社会党の指導部は護憲派一色でしたが、その支持者を見ると、やはり自民党支持者の場合と変わらないほど多くの改憲派が存在していた。

 このように、与党支持者と野党支持者で、改憲か護憲かがハッキリと分かれるのは、実は古くて新しい現象なのです。古くは1950年代前半に同じ現象が見られ、60年を経たいまそれが再び現れている。50年代の鳩山一郎首相と現在の安倍首相の2人だけが、戦後の政治史を通じて首相就任後も真正面から改憲を進めようとしています。その背景には、世論の改憲への機運の高まりがあります。

――当たり前ですが、政府や政治家は世論調査の動向をしっかりとチェックしているのですね。

境家:もちろん世論は政治へ反映されています。たとえば、1950年代にはあれだけ改憲を訴えていた自民党ですが、1960年代以降積極的に主張しなくなったと先に申し上げました。自民党議員の多くは本心では改憲を推し進めたいと思っていたでしょうが、いざ首相にまでなると、世論を考慮し公言することができない。その典型的な例が、中曽根康弘元首相。彼は、1950年代から一貫して改憲派でしたが、1982年に首相になった途端口に出さなくなった。

――巷では世論調査の信憑性、たとえば報道機関によってバイアスがかかっているのではないかと指摘されますが、実際はどうなのでしょうか?

境家:基本的に各メディアの世論調査担当の人たちは、客観的な世論を知りたいと考えている人たちが多い印象です。ただ、先ほどの一般改正質問にしてもそうですが、同じ趣旨の質問でも、聞き方や回答の選択肢が異なれば、結果は変わってきます。ただし、憲法改正に賛成か、反対かに関しては、社によってパーセンテージは異なりますが、パーセンテージの上下動のトレンドはほとんどの社で一致することが多い。そこで重要になってくるのは、一社の調査だけを見るのではなく、なるべくさまざまな調査を総合的に見て、傾向を探ることです。

――世論調査を見ていると、何か問題が起きると、支持率が一気に上がったり、下がったりしますが、どうしてでしょうか?

境家:政治現象に関して、一般の人は日常生活のコミュニケーションのなかで得る情報は限られている。大抵は、メディア報道によって意見が形成されます。たとえば、若い有権者は憲法改正に関し、意見をコロコロと変えます。かれらは、新聞を読まないなど、政治に関する情報が十分に与えられていない。そのために意見がしっかりと形成されていないのです。憲法改正に賛成か、反対かについて、憲法や政治に興味がある人ならそう簡単に意見は変わりませんが、そうした人はそれほど多くありません。同じ回答者に対し、4年間で4回、憲法意識を聞いたパネル調査の結果によれば、護憲派で4年間一貫していた人は27%にすぎませんでした。

――最後に、あえて本書を薦めたいとすれば、それはどんな人たちでしょうか?

境家:憲法の問題は、戦後の日本政治を見る上で重要な争点です。それを知ることで戦後の日本政治の全体像や今日の政治への理解がより深まると思います。本書がそういった点に関心がある人の助けになればと思いますね。

  
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