2024年12月4日(水)

したたか者の流儀

2018年7月20日

 盲腸の手術で、その切り裂き方に慶応スタイルと東大スタイルがあると聞いたことがある。我こそは日本医学のパイオニアであると自覚する場合、それぞれが独自のスタイルとなるのも理解できる。

 今年の株主総会で、あちこち参加してみたが慶応東大の盲腸手術スタイルほどの差も感じられないことを実感した。総会屋が跋扈し、法令順守を徹底しなければ身が持たない時代は既におわりを告げているのだが、その受け身的株主総会運営が気持ちよくなってしまったのだろう。

(R-DESIGN/GettyImages)

 そんな矢先、一部報道によると金融庁は紋切り型の有価証券報告書では投資家はそれを有効活用できないとして、2019年度からの適用を視野に入れてトップ自らの発言を組み入れるための指針づくりを始めるとのことだ。たとえば業績低迷はについて、円高のためなどとするその場限りの短絡はいけないとするようだ。リスク情報も全て開示して投資家が投資判断をしやすい体制にすべしとするようだ。

 現在のところ、たとえば、株主総会はどこも独自性がなく、誰かが台詞をつけていると感じてしまう。加えて、やたらにビデオでの説明の時間が長く、経営者が自らの言葉で事業成果を語ることは極めて少ない。

 よく聞いてみると、議長であるCEOの発言は「御異議ございませんか」「賛成の株主様、拍手をお願いいたします」「それでは原案通り承認されたと認めます」この三つ台詞が語れれば議長が務まるという状態になっているのだ。

 CEOや他の経営者の報酬が急激に上昇するのと平仄をあわせて、ビデオによるレヴューが過半を占め、ますます株主総会が形骸化してきたのも不思議な現象だろう。少なくとも1990年代までは、株主証券代行を業としていた信託銀行が10行近くあった。

 それぞれが、上場会社の株主対応全般のアドバイスも受注していたようだ。特に株主総会のリハーサルは迫真のものであったと聞く。「銀座に週何回行っているのだ」「おめかけさんがいるだろう」などと、ある信託銀行では、あまりにも真に迫ったリハーサルとなり、むしろ会社側から疎んじられたという話も残っている。

 それぞれの信託銀行が独自のスタイルを編み出し、総会屋排除を主眼としながらも、いわゆる「シャンシャン総会」をめざして、今年は40分をきったなどと自慢していたものだった。総会屋がほぼ放逐され、大手銀行が三大メガバンクに統合される過程で上場会社の拠り所である信託銀行も事実上3行となってしまった。

 力強いアドバイス力と証券代行の運営力が生まれたものの、株主と経営者との対話がむしろ希薄となり、大過のない総会運営をめざすことになるきらいがある。

 水も漏らさぬ運営でCEOの吐息は聞こえない。


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