秋丸機関は第3の選択肢を出すことができた
こうした状況は現代の政治や、ビジネスのなかでも起こりうる。上手に乗り切るために必要なことは何なのか。牧野氏はこう話す。
「視野狭窄に陥らないようにして、選択肢を広めに持つということが大事だと思います」
そうすると、日米開戦時にこのような大局的な視点に立って物事を判断できる人材がいれば、日米開戦は回避できたのだろうか。牧野氏は、秋丸機関は第3の選択肢を出すことができる存在だったと考えている。
満州時代に、後に首相となる岸信介、日産の創業者である鮎川義介などと対等に渡り合い、共に仕事をして「関東軍参謀に秋丸参謀あり」と謳われた秋丸主計中佐、そして東大教授の有沢広巳、慶應大教授で陸軍主計少尉でもあった武村忠雄など、優秀な人材が集結していた。
「もし、秋丸機関に『3年後でもアメリカと勝負できる国力と戦力を保持できるプラン』を出すように示唆する人物が陸軍にいれば、秋丸機関はそのプランを出すことができたと思います」
開戦を回避していたら、その後の日本はどうなり、いま、どうなっていたのだろうか……とも、考えてしまうが、それは本書の主題ではない。
現在まで、かつての日米(英)戦争は、非合理的な陸軍が無謀な戦争をはじめたという認識が一般化している(もちろん、帝国陸軍は様々な過ちを犯した)。ただ、「ストーリーとして分かりやすいから、戦後こうした考えが浸透したのだと思います」と、牧野氏が指摘するように「陸軍悪玉論」にしてしまうと、思考はそこでストップしてしまう。
牧野氏は、本書の冒頭で政治学者・丸山眞男の言葉を引用している。
「陸軍や海軍というのは、もともと組織的に頭のいいのがいたというせいもあるけれど、よほど合理的だったのではないか」
決して狂信的な人たちではなく、むしろ合理的な人たちが「正しい情報があったはずなのに、なぜこのような選択をしたのか?」。この問いは、現代にも通じるのである。
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