2024年12月23日(月)

日本を味わう!駅弁風土記

2011年6月10日

新幹線700系のぞみ号の運行開始を記念して
1999年4月に登場した新しい駅弁は、今では名古屋駅を代表する駅弁となった。
味噌カツ駅弁ブームの火付け役とされる、
ビックリするほど赤黒く大きなミソカツが旅行者の度肝を抜く。

 名古屋は元気である。名古屋を核とする中京圏は21世紀に入り、自動車産業が発展を続け、地下鉄の環状線が完成するなど都市鉄道の拡充が進み、高速道路が内陸に湾岸に延伸された。新たな国際空港ができ、万博が開催され、ドラゴンズは日本一になった。発展や成長が映像や活字になり、常に発信され続けている。

 そして、名古屋駅の駅弁もまた、元気である。3社で40種類以上を数える豊富な品揃えも楽しいが、これがこともあろうに同じ売店で一斉に陳列されている。パッケージは赤や黄色といった明るい色が目立ち、客は駅弁の選択に忙しく、店員は駅弁の販売で慌ただしく、見た目がとても賑やかである。駅弁という単語に付されがちな旅情や郷愁という枕詞とは違った魅力が、名古屋駅の駅弁には備わっている。

濃厚な甘さと控えめな辛さ

 1999年4月、新幹線700系のぞみ号の運行開始を記念して登場した駅弁のひとつが「びっくりみそかつ」である。今では名古屋駅を代表する人気の駅弁となっているから、その名を聞いてもびっくりすることはないが、駅弁としてはなんとも奇抜な名前ではないか。

びっくりみそかつ 名古屋だるま 980円

 ふたを開けると、飯とカツと付合せ。シンプルで分かりやすい駅弁もまた、人気を集めやすい。この駅弁を初めて食べた時には、とにかく驚いた。トンカツがびっくりするほど大きく、衣が完全にひたるほどタレにまみれて、その色がびっくりするほど黒い。今でこそ尾張や三河の八丁味噌が全国区の知名度を得ているから、なるほどこれは名古屋らしいぞと解釈できるが、名古屋の元気が今ほど発信されていなかった12年前は、旅行者が食べ物と認識できたかどうかも怪しい。

 恐る恐る箸を付けてみた。味噌カツには切れ目が入っておらず、プラスティック製のナイフとフォークが付属する。一口サイズに切り分けて口へ運ぶと、八丁味噌の濃厚な甘さと控えめな辛さが口元にまとわり付く。ロースカツはそこそこ柔らかくも肉質が締まっており、これはタレにも白御飯にも合う。見た目は怖いが味はうまい。そして分量以上の満腹感が、味の重量感から生まれる。四桁に届かない980円という価格も、満足を妨げない絶妙な設定だと感じる。


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