現職の大統領の訴追はできないのか
前述したように、コーエン氏の口止め料支払いが選挙資金法に違反するとすれば、指示した大統領も「共謀共同正犯」である。しかし、司法省の長年のルールは「憲法が現職の大統領に対する刑事訴追を許さない」というものであり、トランプ氏が刑事告発を受ける可能性は極めて小さい。
だが、憲法(第2条4節)は弾劾について定めており、「選挙の健全性を損なうことを目的とする容疑」は弾劾のための憲法基準を十分に満たしているとの説が有力。また、大統領職に就く前の不正行為は一般的には弾劾の対象ではないとされているものの、「大統領職を得るための不正行為は例外的なケースとして認められる」(米紙)という意見が多い。
つまりトランプ氏が自分の選挙戦に悪影響を与えないために不倫問題のもみ消しを図ったのなら、弾劾に相当する重大な行為ということになるだろう。後は議会がどう判断するかだ。大統領弾劾は下院の過半数の賛成で訴追が決定され、上院の3分の2以上の同意で有罪となり、大統領は罷免される。
米議会の勢力は現在、両院とも共和党が多数派であり、今のままで弾劾が通ると考えるのは非現実的だ。しかし、夏季休暇が終わって9月に議会が本格化、11月6日の中間選挙に向けて選挙戦が白熱し、弾劾が取り沙汰されるような事態になれば、トランプ大統領支持をめぐって共和党内に亀裂が生まれることもありえよう。
マナフォート氏の裁判で、大統領にとって不利な事実が飛び出してくる可能性もある。モラー特別検察官が事情聴取に応じない大統領にしびれを切らし、召喚状を出すという決断を下すかもしれない。一番追い込まれているのは腹心の裏切りにあえぐトランプ氏だ。
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