無人運転が完成することで
得られる社会的利益
自動運転は社会的な価値も大きく変える。ドライバー不要の車は、概(おおむ)ね個人が所有するものではなく、人やモノの移動サービスを提供する事業者が保有する。自動車業界のビジネスモデルはクルマの売り切り型から継続的オペレーション型へと変化する。また、米調査会社アークインベストのアナリスト・Tasha Keeneyによると、クルマによる移動コストは完全自動運転になると、1マイルあたり約70セントになり得るという。これは現在の人の運転による配車サービスにかかるコストの4分の1にあたる(サンフランシスコ周辺の環境を想定した場合)。
もちろん、あらゆるクルマが一気に自動運転化されるわけではない。技術的に導入しやすい地域や、事業的に導入が効果的な地域を見極め、徐々にサービス領域が拡大していく。その上で、自動運転が導入された際には次のような社会的利益をもたらし、同時に新たなビジネスの創生につながる。
②都市におけるクルマの渋滞、駐車場不足の解消、移動時間の有効活用
③過疎高齢化地域への対応 (高齢者・交通弱者の移動能力の拡大)
④タクシードライバーの高齢化やトラックドライバーの人手不足の解消
⑤社会コストの低減(エネルギー消費、公害、渋滞問題、死傷事故による医療コスト、公共・私有財産の遺失等)
⑥シェアリングエコノミーの発展
⑦関連産業における、技術革新や投資・雇用増大への新たな機会提供
これらを今後ビジネス化する上で重要な視点は、その多くがクラウド上でソフトウェアを記述し、サービスを連携させるだけで実現可能ということだ。
たとえばオンデマンドの配車サービスを利用する人が宅配の荷物を受け取る場合、自動運転車が宅配業者に立ち寄りその荷物を入れてもらえれば、最後は荷物を家に運び込み、1マイルあたり約70セントといった人の移動コストは宅配料金に吸収されタダになるといった事も考えられる。これはクラウドのソフトウェアで人の動きと物の動きを結び付けるSNS的なデータセンター上の技術で実現されるサービスだ。
一方、最近のレポートによると、UberやLyftのような配車サービスの拡大が、むしろ都市交通に対して負の影響があるという指摘がある。たとえばボストンでは、本来公共交通機関を利用し自転車や歩行によって移動したはずの人々の42%を配車サービスが吸収し、ニューヨークでは過去3年間で配車サービスが市内の走行距離を6億マイル増加させたという。
しかし、これは既存の枠組み内に配車サービスが組み込まれた場合の議論であって、自動運転と公共交通機関との最適な組み合わせにより交通の多くの問題を解決すると目されている。