2024年4月19日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2018年9月28日

テレポーテーションの可能性

 このように、「不可能」とみなされていながら、数十年から数世紀後には当たり前になっていておかしくないようなテクノロジーはまだまだある。そんなテクノロジーは何だろうか、と考えるのが本書のテーマである。

 カク教授は、本欄でご紹介した他の著書でも書いている通り、「SF大好き少年」だった。その熱い関心と幅広い知識が、本書にもいかんなく披瀝されている。

 『スター・トレック』や『透明人間』、『フラッシュ・ゴードン』などなど、古今のSF作品に登場する「ありえない」テクノロジーは、いつ、どのように実現できるのか? あるいはただの夢物語なのか?

 今では当たり前のGPSや携帯電話は、かつては想像の世界にしか存在しなかった。だとしたら、タイムトラベルやテレポーテーションも実現できる日が来るかもしれない。

 すでに、ある「不可能」なテクノロジーが可能であることがわかってきている、とカク教授は語る。それは、(少なくとも原子のレベルでの)テレポーテーションだ。

 <ほんの数年前までは、物理学者は、ある場所から別の場所へ物体を転送するのは量子物理学の法則に反していると言っていた。事実、『スター・トレック』の最初のテレビシリーズを書いた脚本家たちは、物理学者からの批判に悩まされたあまり、その問題のために「ハイゼンベルク補正器」を加え、転送装置を説明した。だが今日、最近の画期的な発見によって、物理学者は部屋の端から端へ原子をテレポートさせたり、ドナウ川の地下で対岸へ光子をテレポートさせたりできるようになっている。>

「不可能」をレベル分けする

 物理学の基本法則が本質的に明らかになっている現代では、物理学者は、「未来のテクノロジーがおおまかにどんなものになるかについて、そこそこ自信をもって語れ、ただ単にありそうにないテクノロジーと、本当に不可能なテクノロジーとを、昔よりきちんと区別できるようになっている」という。そこで本書では、「不可能」なことを三つのカテゴリーに分けた。

 「不可能レベルⅠ」のカテゴリーは、現時点では不可能だが、既知の物理法則には反していないテクノロジー。したがって、今世紀中に可能になるか、あるいは来世紀にいくらか形を変えて可能になるかもしれない。

 ここに分類されるのは、フォース・フィールド、不可視化、テレポーテーション、テレパシー、念力、ロボット、地球外生命とUFO、スターシップなどである。

 「不可能レベルⅡ」は、「物理的世界に対するわれわれの理解の辺縁にかろうじて位置するようなテクノロジー」。かりに可能だとしても、実現は数千年から数百万年も先のことかもしれない。タイムマシン、超空間飛行、ワームホールを通過する旅などが、このカテゴリーに入る。

 そして「不可能レベルⅢ」は、既知の物理法則に反するテクノロジーにあたる。「意外にも、この種の不可能なテクノロジーはきわめて少ない。もしもこれが本当に可能になったら、物理学に対するわれわれの理解が根本的に変わることになる」という。それが、永久機関と予知能力である。


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