朝。
実をいうと、私の京都の朝は決まっていた。錦市場をぶらつき、「イノダコーヒー」でモーニング。ところが、行くたびにイノダは苦手な行列。という話を飲みながらしていたら、ならばと釆野さんが教えてくれたのが、寺町通の「スマート珈琲店」。戦前からの老舗だが、どちらかというと地元に愛されてきた店。店頭で焙煎されている、その香りをかぎながら、コーヒーにフレンチトースト。いや、ホットケーキもよろしいか。悩ましいところ。
ご主人の元木茂さんに、ホットケーキやフレンチトーストが新しかった頃の話、美空ひばりをはじめとする昭和のスターたちが、京都太秦(うずまさ)の撮影所から、この店に通った話など聞きながら食べる朝食はまた格別だ。
ランチが名物で、その時間帯やら週末はこちらも行列が出来ると聞いたが、次回のお楽しみにしよう。ここからは錦も近い。楽しい散歩だ。
ついつい寄ってしまうのが「有次(ありつぐ)」。料理好きにはたまらぬところである。何本、庖丁を仕込んでしまったか。いや、庖丁のみならず、ちょっとした料理道具を探すのが楽しい。京都の食の工夫を、知恵を台所の側から教えてくれる。あら、こんなものがあったか、と。そして、それらのどれもが美しいときている。
柚子の皮などおろし金から器に取る、可愛らしい竹の箒のようなこれ、よさそうだ。今回の庖丁は、さて……。向かいの「錦・高倉屋(たかくらや)」あたりで漬物を買うか、昔よく買っていた親父泣かせとかいうご飯の友はどこにあったか。
歩き回って一休みするのにぴったりのお店が、先斗町(ぽんとちょう)の「茶香房 長竹(ちゃこうぼう ながたけ)」。日本茶、中国茶を美味しく飲ませてくれるところであり、その茶葉を使った甘味も、炒飯などもよろしい。
暑いさなかには冷たく出した玉露の甘み、旨みは発見の味だし、宇治氷のほかでは知らぬ美味しさも発見に違いない。さて、涼をとるだけにするか、軽くご飯ものでも……。
生き返ってもう少し、訪ねたいあそこやあそこ、買っておきたいあれやこれやを。