西山隆行が読み解くアメリカ社会

2018年10月9日

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西山隆行 (にしやま・たかゆき)

成蹊大学法学部教授

東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。甲南大学法学部教授を経て現職。専門は比較政治・アメリカ政治。著書に『アメリカ型福祉国家と都市政治』(東京大学出版会)、『移民大国アメリカ』(筑摩書房)、『アメリカ政治』(三修社)、『アメリカ政治入門』(東京大学出版会)、5月に『アメリカ政治講義』(筑摩書房)が刊行予定。

下院では民主党、上院では共和党に有利か

 今回のカバノーの承認問題は、中間選挙にも大きな影響を及ぼすと予想されている。今回の中間選挙では、民主党は医療保険の問題を、共和党は減税と景気の問題を積極的にとりあげようとしていたが、カバノー承認問題はそれらの争点を吹き飛ばした。この問題は、下院選挙では民主党に、上院選挙では共和党に有利な状況を作り出したと予想されている。

 下院の選挙については、現職議員の再選率が通例90%を超えていることもあり、現職が引退する選挙区の動向に注目が集まっている。中でも、共和党が議席を占めていた郊外地域で民主党がどれほどの票を獲得できるかが重要になるとされていた。今回は、トランプによる女性蔑視発言とカバノーの性的暴行疑惑を受けて、とりわけ大卒の女性有権者が政治参加を活発化させている。また、トランプの人種差別的態度に加えて、カバノーが判事になると積極的差別是正措置が撤廃される可能性も高まることから、黒人や中南米系などの投票率も高くなる可能性がある。

 一般に、大統領選挙の際には有権者登録をした人の6~7割が投票に向かうのに対し、中間選挙の場合はその割合は4割に低下する。中でも、若者、女性、黒人、中南米系などマイノリティの投票率が下がることが知られているが、今回の選挙ではこれらマイノリティが活発に政治活動を行っている。この状況は、民主党を利すると予想されている。

 他方、上院の選挙については、今回改選される35議席ののうち、共和党が議席を有しているのは9だけであり、残りは民主党系である。しかも、民主党が現職の州のうち10州でトランプが2016年大統領選挙の際に勝利しており、そのうち5州ではトランプが19ポイント以上の差をつけている。このような状況で民主党が議席を伸ばし、さらには多数派になるのはそもそも極めて困難だった。

 それに加えて、今回のカバノー承認問題は、リベラル派のみならず、トランプ支持者や社会的保守派の活動を活性化した。トランプ支持者が今回の中間選挙で投票に行くかに疑問が呈されていた時期もあったが、カバノー承認問題の政治問題化に伴い、トランプ支持者や社会的保守派の投票率も上がると予想されている。元々共和党が優位する州での民主党の勝利は容易ではなくなったと考えられる。なお、ウェスト・ヴァージニア州選出のマンチン議員が民主党に所属しているにもかかわらずカバノーの承認に賛成したのは、同州が保守的な傾向が強いためであった。

 近年のアメリカ政治では、様々な問題が次々と浮上するため、各問題に対して注目される期間は短くなっている。今回のカバノーの承認問題も、ひょっとすると間もなく忘却されるかもしれない。だが、この問題は間違いなく、様々な形でアメリカ政治に長期的な影響を与えるだろう。
 

  
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