砂上の楼閣
どんな形で政治決着が図られるにせよ、サウジの若き改革者として売り込まれてきたムハンマド皇太子のイメージは完全に地に落ちた。皇太子は今月下旬リヤドで、第2回サウジ投資会議を開催する予定だ。この会議はスイスで毎年開かれる世界経済フォーラム主催のダボス会議を文字って「砂漠のダボス会議」と呼ばれている。
第1回会議が2017年10月に開かれ、世界の政治家や企業人、投資家、マスコミなど多数が参加した。皇太子は会議で「世界の新たな地平を切り開く」と宣言、砂漠に5000億ドルを掛けてハイテクとロボットを駆使した「ネオム」という人口都市を建設する構想をぶち上げ、投資を呼び掛けた。皇太子の国家改造計画「ビジョン2030」の一翼を担う計画だ。
今年はその2回目。最高級ホテル「リッツ・カールトン」を舞台に華々しく開催、世界中から要人を集める計画で、米国からもムニューシン財務長官を団長に多くの政財界人が参加する見通しだった。皇太子はこれに先立つ4月、米国を訪問してトランプ大統領と昼食を共にし、フェイスブックの創始者マーク・ザッカーバーグ氏、マイクロソフトのビル・ゲイツ氏らと写真に収まり、投資会議の宣伝をした。
しかし、カショギ氏の失踪事件が起きた後、多くがサウジや皇太子との関係を見直し始めた。米有力紙などによると、ライドシェア最大手「ウーバー」のコスロシャヒ最高経営責任者ら企業経営者、ニューヨーク・タイムズ、CNNといったメディアも参加を取りやめた。ムニューシン財務長官がキャンセルするかは明らかではない。
皇太子はサウジ王国の古い体質の改革者、とのイメージをアピールしてきた。映画やコンサートなどの娯楽を開放し、女性の車の運転を解禁、宗教警察の権限を縮小し、各国から評価を受けてきた。しかし、カショギ氏の失踪事件が皇太子自らの命令によるものとの見方が強まり、ダーティな裏の顔がクローズアップされるところとなった。
国内的には権力を掌握するため王族も含めた政敵や反体制派を徹底的に弾圧し、対外的には隣国イエメンの内戦に武力介入、子供ら民間人の殺戮も意に介さないという非情な独裁者の顔だ。皇太子は失踪事件のあまりの反響の大きさにビックリしているという。「墓穴を掘った」(ベイルート筋)“裸の王子”故の戸惑いだろう。王子が夢を描いた砂漠の都市「ネオム」は本当に砂上の楼閣になってしまうかもしれない。
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