2024年11月22日(金)

西山隆行が読み解くアメリカ社会

2018年11月8日

政策論争よりもトランプ大統領への「評価」を強調

 今回の中間選挙は、通例とは異なる特徴を持っていた。

 第一に、連邦議会に党の顔となる人物が不在だった。通例の選挙では、現職の下院議長が下院多数派の政党の顔として、そして、下院少数派が逆転勝利した場合に下院議長を目指す人がその政党の顔として、選挙戦を主導することが多い。だが、今回の選挙では現職下院議長のポール・ライアンが引退表明をし、民主党で下院議長への返り咲きを目指しているとされるナンシー・ペロシは共和党支持者の間でとりわけ不人気なこともあって表立った活動を控えた。

 その結果、現職大統領のドナルド・トランプが共和党の、前大統領のバラク・オバマが民主党の顔として存在感を示す結果となった。権力分立が厳格なアメリカでは、大統領と連邦議会は抑制と均衡の関係に立つため、大統領が議会選挙の顔となるのは本来好ましくない。選挙戦がトランプ対オバマの様相を示したことは、二大政党共に連邦議会議員の中で、選挙の顔となるべき人物が存在しないことを示唆していた(この点については、9月の記事「中間選挙で民主党がオバマに頼らざるを得ない理由」http://wedge.ismedia.jp/articles/-/14082 を参照していただきたい)。

 それと関連して、第二に、今回の選挙ではトランプ大統領への評価という側面が強調され、政策論争が回避された。民主党はトランプ大統領に対する批判を中心に選挙戦略を組み立てた。トランプ相手に政策論争を展開してもかみ合った政策論争は成立しない。民主党が提示する政策案に対してトランプが過激な発言をし、感情的対立に発展するのがおちである。そのような判断を基に、民主党は政策論争を徹底的に避けたのだった。

 そして第三に、先ほど指摘したように、今回は長らく民主党優位の予想が続いていたものの、選挙直前に混戦化したのが特徴だった。それには10月になってから登場したいくつかの要因が影響している。ホンジュラスやエルサルバドル、グァテマラなどの中米諸国から暴力を逃れて庇護を求める約7000人の集団(キャラバン)が選挙直前にメキシコ経由でアメリカに向かってくるという事柄が発生したこと、また、ブレット・カバノー氏の連邦最高裁判所判事への就任をめぐる問題が大争点となったことが、トランプ支持者を刺激し、共和党に有利に働くことになった。

依然として有効な「移民戦略」、
根強いトランプ支持者の存在

 共和党は下院で多数を維持することはできなかったものの、意外と善戦した背景には、トランプ支持者の存在がある。とりわけ、必ずしも裕福とは言えない白人、中でも、ラストベルトと呼ばれる地域で製造業に従事していた労働者階級の人々と、福音派キリスト教徒が大きな影響を果たした。

 トランプは前者の支持を得るために、中南米系の移民や不法移民が彼らの雇用を奪っていると主張し続けてきたが、その戦略は依然として有効だった。先に述べたキャラバンについて、トランプは、麻薬密売人やギャング集団、イスラム過激派が混じっているなどと根拠の定かでない主張を繰り返して危機を煽った。トランプは民主党が彼らをアメリカにけしかけてアメリカの主権を脅かさせているとも主張した。

 ちなみに、10月27日にペンシルヴェニア州ピッツバーグのシナゴーグ(ユダヤ教礼拝所)で銃乱射事件を起こした反ユダヤ主義者の犯人は、民主党に巨額の支援を行ってきたユダヤ系のジョージ・ソロスがキャラバンの組織化を促したと主張していたようだが、FOXニュースなど保守派メディアでも、ユダヤ系などが民主党に有利な状況を作り出すためにキャラバンを向かわせたのではないかとの陰謀論が主張されていた。2016年大統領選挙でトランプを当選させたのと同様に、中南米出身者によって国境危機がもたらされているという(おそらく誤った)認識が、トランプ支持者を共和党支持に向かわせた。

 後者の福音派キリスト教徒については、カバノー判事の任命問題をめぐって展開された反カバノー・キャンペーンが悪影響をもたらした。福音派は1973年のロウ対ウェイド判決で女性に認められた人工妊娠中絶の権利を覆すことを目指している。それら社会的争点については裁判所が大きな影響力を持つため、判事の任命は中絶賛成派・反対派の両方にとって重要な問題である。カバノーは中絶など社会的争点において福音派と同様の立場をとっており、反カバノー・キャンペーンは福音派キリスト教徒の活動を活性化したといえよう(この点については、10月の記事「「カバノー承認問題」で党派対立激化、中間選挙への影響は?」http://wedge.ismedia.jp/articles/-/14172 を参照していただきたい)。


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