「ロシア・ファースト」の民意が「帝国」を破壊した
ソ連は社会主義という正義を掲げてきた。その拡大のためアフガニスタンにも侵攻したが、戦費に耐えられなくなった。北カフカス出身のゴルバチョフは連邦維持を図ったが、多数派のロシア出身のエリツィンは離脱を選び、結局ソ連は崩壊。「ロシア・ファースト」の民意が「帝国」を破壊したと言える。
自由・平等の建国神話(ただし、先住民や黒人は出てこない)を持つアメリカも人工国家だ。自由世界からテロの脅威を排除するとして一方的にイラク戦争を開始したが、人的・経済的コストで窮地に。国内的にも、黒人・移民など少数者へのアファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)への不満から「アメリカ・ファースト」意識が噴出し、トランプを大統領に押し上げた。
「帝国」神話の激震はEUにおいても同じだ。EUの原点は2度の大戦の反省に基づくドイツ・フランスの和解と協力(1951年)だった。ところが、28カ国に増えた現在、多くの加盟国には「負け組」のはずのドイツのみがユーロ安や自由な労働市場で利益を得ているように見えて仕方がない。
それが各国の反EU政党の躍進の背景だが、もしもドイツ包囲網に嫌気がさしてドイツ自身がEU離脱に舵をきれば、「欧州の平和」を目指したEU「帝国」は解体する。
「帝国とはたんに軍事・経済的な限界ではなく、そのにない手となっている人びとの身体的な自己像を超えてしまったときに、崩壊を起こす」
と與那覇氏は記している。
言語=理性(リベラリズム)の退潮は世界的な潮流であり、「身体」的な自国第一主義の勃興は今後当分の間続く模様だ。
どこからどう手をつければいいのか?
前出のホックシールド氏は、「(成功への)列を前に進んでいる人がいるのに、自分は進んでいない。こういった感情は世界的なトレンド」なので、「グローバル化の敗者のための政策」が必要だと説く。
なぜなら、「グローバル化が新たな『持てる者』と『持たざる者』を生み出した」からだ。
と、ここまで書いた時、驚くべきニュースが飛び込んできた。
日産自動車の代表取締役会長カルロス・ゴーン氏が、5年間分の報酬約99億9800万円を有価証券報告書に約50億円過小に記載したことで逮捕された、という。
以後連日、『持たざる者』には想像もつかなかった『持てる者』の地球規模の金満ぶりが、内外のメディアを賑わしている。
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