3・11以前の日本には、こんなエネルギー政策の青写真があった。「国民の理解及び信頼を得つつ、安全の確保を大前提とした原子力の新増設(少なくとも14基以上)」——。
これは、2010年6月に政府が発表した「第2次改訂エネルギー基本計画」に盛り込まれた原発増設の具体的方針だ。だが、福島第一原発事故で、原発の「信頼」と「安全」は完全に失墜した。新増設はおろか、定期点検中の原発の再開さえ難しいのが現状だ。日本人の目と心に刻まれた忌まわしい原発の記憶は、簡単に消し去られるものではない。
では、原子力に代わるエネルギーをどう得ていくのか。例えば、首が据えかえられる日本政府首相と、時代の寵児となった孫正義ソフトバンク社長の構想を見てみる。どちらも目指すは「再生可能エネルギーの普及促進」だ。再生可能エネルギーとは、一度使ってもある程度時間が経てば再び使えるようになったり、量を減らさずに連続的に使えたりできるエネルギーを指す。中でも「三大再生可能エネルギー」と言われるのが、太陽光・バイオマス・風力だ。
ついに首相退陣となった菅直人氏は、5月に行われたG8サミットで「2020年までに自然エネルギーの割合を発電量の20%超に引き上げる」と発表し、計画の目玉として「太陽光パネル1000万戸設置」を掲げた。7月7日には、参院予算委員会で「現在の原子力発電費用に近いところまで、太陽光や風力発電の費用を下げたい」と述べ、その6日後には「脱・原発依存」を個人的に表明する。そして8月26日、「私の顔を見たくないのなら、早く通したほうがいい」とまで発言し、辞任の一条件にしていた「再生可能エネルギー促進法案」を国会で成立させるに至った。
こうしたエネルギー政策の基本方針は、次の首相にも引き継がれそうだ。民主党代表選挙で代表に選ばれ、30日に新首相に指命されることになったのが野田佳彦氏。野田氏は、『文藝春秋』2011年9月特別号で「わが政権構想」を寄稿している。この中で、再生可能エネルギー関連の構想について、次のように述べている。
「太陽光や風力、地熱、バイオマス(生物資源)といった自然エネルギーの拡大は新時代の国家戦略です。現在、わが国の自然エネルギー比率は9%(水力含む)に過ぎません。これを2020年代に20%まで上昇させるのが当面の目標です。野心的な目標ですが、国家として実現すべき目標です。自然エネルギーの拡大は、エネルギーの確保と新産業の育成の両面で意義があるからです」
一方の孫氏は5月23日、参議院行政監視委員会で「電田プロジェクト」を表明。休耕田20万ヘクタールと耕作放棄地34万ヘクタールに太陽光パネルを敷き詰め、2020年までに5000万キロワットの発電容量を実現させようとする計画だ。原発1基で100万キロワットとして、原発50基分に当たる。さらに屋根の太陽電池からエネルギーを得る「屋根プロジェクト」も発表、2020年までに太陽光発電で1億キロワット(原発100基分)を実現しようとしている。
明らかなのは、どちらとも再生可能エネルギーの中心に「太陽光発電」を据えているということだ。菅氏がG8サミットで示した「再生可能エネルギーの飛躍的拡大」でも、具体的数値をもって目標が掲げられたのは太陽光発電のみ。孫氏は太陽光以外の再生可能エネルギーも考えていないわけではないようだが、2020年までの設置目標で太陽光が1億キロワットであるのに対し、「風力、地熱他」は0.5億キロワット。少なくとも表向きは太陽光が中心だ。
この太陽光第一主義は彼らに限ったことではない。政治も、産業も、官僚も、マスメディアも、市民も含め、日本全体が「再生可能エネルギーといえば太陽光」といった風潮に包まれている。だが、本当にそれでよいのだろうか。
寵愛され続けてきた太陽光
量子ドットに未来を託すが……
他の再生可能エネルギーに比べて、太陽光発電は普及促進と技術開発の両面で“優遇”されている。再生可能エネルギー促進法案が俎上に乗る前から、再生可能エネルギーの中では太陽光発電のみが、固定買取価格制度の対象になってきた。また、経済産業省の2011年度資源・エネルギー関連予算案を見てみると、次世代再生可能エネルギーの技術開発への投資を示した「革新的エネルギー技術開発の加速化」の項目で、風力関連37億円、バイオマス関連66億円に対して、太陽光関連には80億円の予算が付けられている。