石油輸出国機構(OPEC)加盟国及びロシアなど一部非加盟国が12月7日に原油の生産量を日量120万バレル減産で合意したのを受けて、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の野神隆之・首席エコノミストは今後の原油の需給見通しについて「減産が目標通り実施できれば、来年前半は若干の供給不足となり、後半はこれがさらに強まるだろうが、実際に減産できる国は限られており、OPEC諸国の結束は必ずしも強いとは言い切れない。トランプ米大統領はガソリン価格が上がることに反対姿勢を示しており、価格の頭を抑えることもある」と指摘、さまざまな要因から原油価格の変動リスクは高まるとの見通しを明らかにした。
来春以降は上昇の展開も
Q 合意した減産の実現はできるのか?
A OPEC加盟諸国で日量80万バレル、ロシアなど非加盟諸国が40万バレル減産することで合意したが、国別の内訳は正式には明らかにされておらず、これが額面通りに減産されるかどうかは不透明だ。今年の半ば以降、までにサウジアラビアが日量57万バレル、イラクが30万バレル、UAE(アラブ首長国連邦)が29万バレル、ロシアが48万バレル増産してきた。このうち、サウジ、UAE及びロシアの3カ国は減産できるが、イラクは経済が疲弊しており、減産は困難な状況だ。
また、今回ロシアは22.8万バレルの減産を行うと表明しており、48万バレルの半分にとどまっている。冬場にそれ以上の減産をすると技術的な理由でパイプラインが故障する恐れがある。それでも、サウジとUAEとロシアができる分だけ減産に踏み切れば100~110万バレルの減産にはなるので、来年春以降の原油市況は若干の供給不足になり価格は持ち直して、後半にはさらに不足感が強まるだろう。
Q カタールがOPECからの脱退を決めた影響は?
A カタールの原油生産量は60万バレル程度と少ないので需給に大きな影響はない。しかし、カタールの脱退は、OPEC諸国の結束に問題があることを市場に見せつけている反面、さらなる中東諸国間の政治外交問題に発展するリスクを内包している。OPECの決定がサウジなど一部の国の独走で決められていることに対して、一部のOPEC諸国間で不満が強まっている可能性もあり、今後、OPECの結束が弱まることにより、市場機能に支障が生ずるかもしれない。カタールはイラン、トルコと接近しており、サウジVSイランという中東諸国の対立構図が複雑化する可能性もある。
また、1981年にペルシャ湾岸のサウジ、クウェート、バーレーン、カタール、アラブ首長国連邦、オマーンの6カ国で結成されたGCC(湾岸協力会議)でのカタールに位置づけにも変化が生ずる結果、湾岸諸国の足並みが乱れるといった展開も排除できない。中東諸国の間に対立が高まれば、地域の不安定化に伴う石油供給途絶懸念が市場で増大することにより、原油に上方圧力が加わることになる。
50ドル台半ば前後が上限とみるトランプ大統領
Q 現段階で原油価格を牛耳れるのはどの国か?
A いまは、サウジ、ロシア、米国の3カ国が同じくらいの原油生産量になっており、単独で原油価格をコントロールできる国はない。価格の下限を設定できるのは減産に参加するOPEC及び、非OPEC諸国、そして米国だろう。一方で上昇を阻むのがトランプ大統領、そしてOPEC諸国だ。サウジは原油価格をトランプ大統領の主張と関係なく決めたいが、その一方で米国の協力は必要だとみており微妙な関係にある。
Q トランプ大統領が原油価格の上昇に対して圧力をかけているようだが?
A 今年の4月から原油価格が上がって5月には1ガロン当たりの価格が3ドルを超えた時には、大統領は中間選挙にも影響するのではないかと価格の上昇に神経質になった。大統領は50ドル台半ば前後が原油価格の上限と見ているようで、サウジに対しても減産により少なくともこの水準を大幅に超過しないように求めるのではないか。