2024年11月22日(金)

ちょいとお江戸の読み解き散歩 「ひととき」より

2019年2月26日

⑤(上)、⑥(下)

 水を描かせても天下一の北斎さん、「点々」で飛沫を描いた点描のはしりです。さらに世界を魅了したのは砕け散る波の描写(⑤)、人間の目では追えない砕ける波を、ハイスピードカメラで切り取ったように捉えた瞬間です。

 ジャパン・ブルー、北斎ブルーと呼ばれる日本の青色、「ベロ藍」は、実は1704年頃にベルリンで作られた「ベルリン藍」が訛ってベロ藍になったもの。北斎さんはこのベロ藍と植物由来の本藍とで濃淡を使い分け(⑥)、波が動いているように描き、その輪郭線まで藍色です。「冨嶽三十六景」にはベロ藍と本藍が絶妙に用いられています。

 北斎さんは75歳頃に出した版本絵本『冨嶽百景』の添え書きにこう記しています。

 「七十までに描いた絵は取るに足りず、七十三にしてやっと思いのまま描け、八十にしてますます進み、九十にして奥義を極め、百にしてまさに神妙たらん。あなたも長生きして私の言葉が嘘でないことを確認してくれ」と。

 21世紀の「百年人生」さえ見ていた、北斎ワールドです。

atelier PLAN=地図制作 写真を拡大

【牧野健太郎】ボストン美術館と共同制作した浮世絵デジタル化プロジェクト(特別協賛/第一興商)の日本側責任者。公益社団法人日本ユネスコ協会連盟評議委員・NHKプロモーション プロデューサー、東横イン 文化担当役員。浅草「アミューズミュージアム」にてお江戸にタイムスリップするような「浮世絵ナイト」が好評。

【近藤俊子】編集者。元婦人画報社にて男性ファッション誌『メンズクラブ』、女性誌『婦人画報』の編集に携わる。現在は、雑誌、単行本、PRリリースなどにおいて、主にライフスタイル、カルチャーの分野に関わる。

●ボストン美術館蔵「スポルディング・浮世絵版画コレクション」について
米国の大富豪スポルディング兄弟は、1921年にボストン美術館に約6,500点の浮世絵コレクションを寄贈した。「脆弱で繊細な色彩」を守るため、「一般公開をしない」という条件の下、約1世紀もの間、展示はもちろん、ほとんど人目に触れることも、美術館外に出ることもなく保存。色調の鮮やかさが今も保たれ、「浮世絵の正倉院」ともいわれている。

  
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◆「ひととき」2019年2月号より

 

 

 

 

 

 

 


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