WEDGE REPORT

2019年2月27日

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風樹茂 (かざき・しげる)

作家、国際コンサルタント

作家、国際コンサルタント(kazakishigeru@gmail.com)。1956年、北海道生まれ。東京外国語大学スペイン語学科卒業。メキシコ留学後、中南米の専門商社を経て、南米アマゾンの奥地でODAプロジェクトの鉄道建設にかかわる。その後は、シンクタンク、研究所勤務などで、首相向けの政策提言、ODA援助、海外投資、NGOプロジェクトに従事。イスラム開発銀行のコンサルタントも経験し、30数カ国を踏査。石油関連事業でカタール、ベネズエラに駐在。

 けれども、既存勢力との戦いは気の変わりやすい浮動票を取るための手段であり、これは盤石の支持層とはなりえない。

岩盤支持層とはやはり……

 (1)の金に清廉、(2)の酒もたばこもコカインもやらない、(3)の堕胎反対。これこそが岩盤支持者、不動票を獲得する理由となる。

 私は番組名の「Despierta(目覚めよ)」、そして(1)、(2)、(3)からメキシコ人の番組制作者がどのような人物かを想像した(取材を試みたが残念ながら返信はなかった)。

 彼はカトリックではなく、エバンジェリスト(スペイン語ではエバンヘリスタ、日本語では福音派)であろう。あるいは番組名からすると、エホバの証人の信者かもしれない。エホバの証人は『ものみの塔』のほかに『目ざめよ!』いう雑誌を発行している。

 清廉、酒もたばこもコカインもやらない、堕胎に反対―それはこれら信者が信じる教義である。メキシコや中南米は本来カトリックであるが、アメリカ政府の思惑もあり、ここ何十年かで、エバンジェリスト、とりわけ音楽や踊りとともに聖霊の降臨を示すペンテコス派が浸透している。

 私の知り合いのボリビア人にも信者がいる。彼は酒もたばこももちろんコカインもやらずに、ひたすら勤勉であった。他のカトリック信者とは大違いだ。

 トランプはピューリタン(長老派)で、福音派ではない。だがまるで福音派であるかのように振舞っている。アメリカの福音派は、人口の4分の1を占めているという。

米国の今後

 私は以前、「『教祖は同じ言葉を繰り返し嘘でも本当になる』トランプに故チャべスの亡霊を見る」で、トランプ、チャべス、そしてそれぞれの支持者の共通性について書いたことがある。チャべスは社会主義者を自認していたが、確固たる思想があったとは思えない。あったのは、自己顕示欲、支配欲、大衆の感情を捕らえる絶妙な雄弁術である。トランプにも確固たる政治的思想や信念があるとは思えない。あるのは一銭の損も許せないという企業経営者の行動原理である。

 トランプの岩盤支持者は信徒であり、かつイルミナティとの戦いを期待する支持層の一部も一時の信者となっている可能性がある。むしろラストベルトで経済的理由から支持をしたものは、雇用を確保できずに裏切られればトランプからそっぽを向くだろう。それは健全だ。

 けれども信者の場合は利や理で動くわけではない。感情である。何があってもトランプを支持するのだ。利で考えれば50億ドルをかけて壁を作るのは、割にあわない。トランプが忌み嫌う麻薬カルテルなどは壁の下に長いトンネルを掘って出入りするのだ。また、中国を孤立化させるには、TPPに加盟するほうが理屈にあっている。

 感情により国が引きずられると、往々にして破滅を招くことは歴史の示すところである。近年では、国民がチャべスという稀代の詐欺師に騙され崩壊したベネズエラだけではなく、誤った経済的な計算と感情からブレグジットの混乱が収束できないイギリスにも当てはまるのではなかろうか。

 トランプを支持する理由は各階層、個人、民族集団、宗教によりさまざまだが、人種構成が大きく変わり、さらに途上国化していく先進国の社会の分断と格差が、トランプに味方をしているのは、間違いないだろう。

  
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