2024年4月24日(水)

オトナの教養 週末の一冊

2019年3月8日

――そうなると人材派遣会社はいまなお潤っているわけですか?

小林:一般職の派遣で人材派遣会社は業績を拡大してきましたが、ここ数年は飽和状態です。最近は、一般職ではなく、看護師や保育士の派遣や人材紹介に力を入れています。どちらも人手不足な上に、公的な資金が流れますから。特に、看護師の場合、年収600万円を超える方もいますから、そのうちの2割、120万円以上の紹介手数料を人材派遣会社が受けとることが多いようす。

インターンシップの利用は有効か

――中年フリーターの問題に対し、国はどのような対応をしているのでしょうか?

小林:就職氷河期世代に対しては、国としては特になにも対策はしていません。自民党の総裁選に出馬した石破茂氏に出馬前に取材したのですが、石破さんは私の記事を読んでいてくれて中年フリーター問題に関心があるようでした。最近、外国人労働者の受け入れが議論されていますが、外国人を受け入れるなら就職氷河期世代の問題をまずはどうにかしようと発言した立憲民主党の議員がいるくらいです。東京都などの地方自治体の一部は、就職氷河期世代に特化した対策を取っています。

 国は、厚生労働省が予算をつけ就職氷河期世代より若い人たちに対してはジョブカフェというハローワークを併設した施設を46都道府県で運営しています。ただ、2009年に『AERA』に書いたのですが、最初は経済産業省も潤沢な予算をジョブカフェにつけ、リクルート社に委託しました。リクルート社は、現場に出向した自社社員に対し日給12万円、受付事務に日給5万円、キャリアカウンセラーに日給7万5000円を書類上計上していることが判明しました。もちろん、実際に社員はそんなに給与をもらえるわけではありません。その差額は3年間で数億円に上りました。

 国が、なにかの施策を打つときに、民間に委託し、委託先が再委託すると国は何も規制することができず、ブラックボックスになっています。

――民間の会社に委託し、税金を無駄にせずに中年フリーターを正規雇用するためには何が必要だと考えていますか?

小林:就労支援に関しては、以前、経済産業省が「中小企業新戦略発掘プロジェクト」、いわゆる「主婦インターンシップ」という事業を実施していたのですが、同じような形で一定期間、現場でインターンとして働いてもらいながら、お互いに見極めるのが良いのではないでしょうか。その際、インターンを受け入れた企業には日給分を国が支給すれば、企業も冒険することができると思います。

 本書にも書きましたが、伊藤忠商事の丹羽宇一郎元会長は、雇用に関し基本は全員正社員にしようと発言しています。私もその意見には賛成です。正社員を基本とし、非正規は学生のアルバイトや扶養控除内で働きたい人などに限定すべきだと思います。正社員と言っても、介護や子育てで長時間働けない人は短時間正社員とし、バリバリ働きたい人は働き、その分待遇を厚くする。そうやって社会保障をきちんと整えなければ、生活が安定せず、先行きも考えられません。

――出版後のどんな声を耳にしますか?

小林:人手不足の企業からは「そんなに大変な人達がいるなら、うちで雇いたい」といった声もあります。だから、当事者の人たちには諦めないでほしい。

 やはり、企業側の責任として人事や管理職、政治行政に関わる人にはぜひとも現実を直視してほしい。非正規雇用の問題なんて自分には関係がないと思っている方もいるかもしれませんが、このままの状態を放っておけば生活保護費の増加で、高所得の人たちは税金をさらに取られるかもしれない。ぜひ本書を手に取り、現実を知ってほしいと思いますね。


  
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