2024年11月21日(木)

食の安全 常識・非常識

2019年3月26日

インフルエンザ予防、根拠は薄い

 食品が医薬品的な効果効能をうたうのは法律上ダメ。でも、それは、乳酸菌シロタ株にインフルエンザ予防効果があるのかどうか、という科学的根拠とは別問題です。本当に効果があるのなら、杓子定規な法律をかいくぐり、なんとかうまく宣伝してゆきたい、という企業の気持ちもわかるし、自分も知りたい……。そう考える人も少なくないでしょう。

 では、乳酸菌シロタ株の予防効果、その根拠はどの程度のものなのでしょうか?

 「インフルエンザ予防に乳酸菌シロタ株が効く根拠論文、免疫力がもっとも高まる状態が36.6度である根拠論文をお示しください」とヤクルト本社広報室に文書で尋ねたところ、前述のようにページ削除という結果でした。

 2月22日の回答は「一部不適切な表現があることについて確認しました。今後、ヤクルトグループの情報発信について、お客さまに誤解されることのないように連携していきます」というもので、根拠についての説明はありませんでした。

 ならば、ということで、学術論文のデータベース「Pubmed」で探してみました。乳酸菌シロタ株のインフルエンザとの関係について人で調べた論文は2つしか探せませんでした。

 1つはヤクルトUKがスポンサーとなり英国の大学で行われたもので、ヤクルトを飲む前後で一部の免疫機構の指標は上昇したものの、インフルエンザAに特異的な指標は、有意差なし。もう1編は、ヤクルト本社が資金提供しベルギーの大学で行われた研究ですが、こちらも高齢者施設の健康な高齢者には効果なし、という結果です。

 これで、学術的な根拠があると言えるでしょうか?

巧妙なトリックがある

 でも、ヤクルトのインフルエンザ予防効果という記事を何度も読んだことがあるけれど……。そんな人は多いでしょう。実はそこに、“トリック”が隠れていると私は思うのです。

 ヤクルト中央研究所は、「菌未来レポート」(https://www.yakult.co.jp/kinmirai/)というサイトで研究成果を公表しており、 “上気道感染症(カゼ・インフルエンザ)”(https://www.yakult.co.jp/kinmirai/report/report2/)というページでは、 「乳酸菌シロタ株を含む飲料を飲むと上気道感染症(カゼ)にかかる回数が、約半分になるという研究成果が得られました」と書き、「乳酸菌シロタ株でカラダにいい未来を」と大きな字で伝えています。

 そして、そのすぐ下で「インフルエンザは予防が大事」として予防接種などについて紹介した後、「免疫力アップ」も予防ポイントとして挙げ、「米、魚介類、野菜、果物、乳製品をバランス良く食べることに加え、乳酸菌などのプロバイオティクスを摂取することで免疫力が高まることが、近年の研究で明らかになっています」と書いているのです。

「乳酸菌シロタ株を含む飲料を飲むと上気道感染症(カゼ)にかかる回数が、約半分になるという研究成果が得られました」と説明したすぐ下に、「インフルエンザは予防が大事」「乳酸菌などのプロバイオティクスを摂取することで免疫力が高まることが、近年の研究で明らかになっています」と書いている
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 これを素直に読んだらだれでも、ヤクルトを飲んでインフルエンザ予防をしよう、と思うのでは。でも、水戸ヤクルト販売会社があっという間に削除したページとは異なります。「上気道感染症にかかる回数が半分になる」という論文は実際に出ているし、後段でも、直接的には「ヤクルト製品や乳酸菌シロタ株が予防する」とは書いていない。したがって、このページはセーフ、なのです。

 製品を紹介するページとは別に、研究成果を紹介するサイトを作り、その中で疾患への効果を説明する。あとは、消費者が頭の中で製品と疾患への予防効果を勝手につなげてくれるのを待つだけ……。

 この手法だと、法律や公正競争規約違反に問うのは難しくなります。私は消費者の心を惑わすトリックだと思いますが、この手を使う食品企業はかなり多くあります。


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