食の安全 常識・非常識

2019年5月9日

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松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)、『効かない健康食品 危ない天然・自然』(光文社新書)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同)で科学ジャーナリスト賞受賞。「第三者委員会報告書格付け委員会」にも加わり、企業の第三者報告書にも目を光らせている。

 では、イーストフードはなんのために使うのか? 主に三つの理由があります。

(1)酵母(イースト)の栄養源

(2)原料水の質の改善

(3)pH調整

 パン作りには酵母=イーストを用います。酵母が生地中で糖類をアルコールと炭酸ガスに分解し、生地がそれらにより膨らみます。これが発酵です。ただし、酵母が活発に働くにはパンの原材料だけでは栄養が少し足りないので、イーストフード、文字通り“酵母の食べ物”を与えて酵母の働きを助け、発酵を促すのです。

 また、パン作りには少し硬度の高い水が適しています。日本の水は軟水なので、カルシウム、マグネシウムなどをイーストフードで補います。さらに、しっかりと膨らんだ風味のあるパンを作るには生地のpH、つまり酸性度を調整した方がよく、イーストフードはそんな効果も持っています。

 イーストフードを使うと、発酵が安定し、パンの風味や香り、ボリューム感等が向上するそうです。街のパン屋さん(パンを焼き同時に小売りもするので、リテールベーカリーと呼ばれています)の多くも、普通にイーストフードを使っています。リテールベーカリーは対面販売なので、法律上、詳しい原材料名などは表示しなくてもよく、消費者は知らないまま買っています。

イーストフード不使用の手法は?

 では、イーストフードを使わずにパンを作るにはどのような方法があるのでしょうか?

 たとえば、生地をこねる時にたんぱく質分解酵素を入れておくと、酵素が小麦粉に含まれるたんぱく質を分解して、酵母が利用できるようになる、というやり方があります。

 酵素は添加物として用いられますが、パンが焼かれると酵素も焼かれて活性を失い、食品に含まれるたんぱく質の一部として消化されるだけとなります。加工時に用いられ、食べる際にはもう効果を持たない添加物は「加工助剤」と呼ばれ、パッケージに原材料として表示する必要がありません。したがって、消費者がパンのパッケージを見ても、酵素の使用の有無はわかりません。

 また、水自体に、食品素材である天然ドロマイト(炭酸カルシウムマグネシウム含有物)を入れる、という手法もあります。人工的に硬度の高い水を作ってしまうのです。また、生地のpHと調整するために食品素材を用いる場合もあります。

 食品素材は、加える量が少なければ、表示を回避するテクニックはいろいろあります。

 こうした方法を駆使して、一部の企業はイーストフード不使用、無添加を達成しています。

同じ成分が食品になったり添加物になったりする

 もう一つの添加物、乳化剤も、物質としては25種類あります。それを一括して「乳化剤」としてパッケージに表記することが認められています。イーストフードと同じように物質名が“隠されている”と受け止められることが、危ないと言われる一因のようです。

 ただし、乳化という現象は調理には欠かせないものです。水と油のように混じり合わないものを均一に混ぜるのを乳化と呼びます。たとえば、マヨネーズでは、酢と油は本来、混じり合いません。しかし、卵黄中に含まれる卵黄レシチンが乳化剤の役割を果たし、一体化してマヨネーズとなります。

 卵黄や卵黄油を原材料として用いる場合には、食品素材。ところが、卵黄や卵黄油に含まれる卵黄レシチンを抽出精製し濃度を高めた製品は、添加物(乳化剤)として扱われます。卵黄レシチン自体としてはなにも変わらないのに、面白いですね。

 卵黄レシチンに限らず、植物油の原料になるナタネ、大豆などに含まれる植物の成分も、卵黄と同じように最初は食品素材、抽出精製し濃度が高められたものは乳化剤となります。

 安全性については、油を食べると体内で消化される際に乳化剤と同じ物質ができるぐらいなので、乳化剤が用いられ人が食べても、問題はありません。

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