「お前が工場長を採用したんじゃないんだ。我慢しろ…!」
男澤 実は、定年にいたるまでには様々な問題があったのです。父は、あの人が部下に激しく叱ることや職場の雰囲気を悪くしている様子を心得ていましたが、決して辞めさせなかった。確かに仕事はできるし、実績もありました。仕事の大きなミスはなく、辞めさせる理由はないと感じていたのでしょう。限りなく、創業メンバーの一員であり、感謝の思いもあったのだと思います。
父とあの人は、ある面ではウマが合ったのかもしれません。少なくとも、創業期から一時期まではあうんの呼吸で仕事を進めることができていたようです。ところが、仕事が増え、技師などが新たに入ると、育成ができない。プレイヤーから、マネージャーになると問題が出たみたいですね。
プレイヤーに徹したい人だったんでしょう。工場長にしてしまったところに、大きな問題があったのだろうと思います。
松本 確かに、ほかの技師と連携ができないようでした。完全に個人プレーで、チームで仕事をすることができない。工場長でありながら、職場の悪い空気を変えようともしていなかったように見えます。自分が、自分が…とほかを押しのけて、前面に出る人だったのかもしれませんね。
男澤 父に疑問を呈すると、「お前が(社長として)工場長を採用したんじゃないんだ。我慢しろ…!」と言うんです。私は、この言葉に遠慮していたのかもしれません。この頃、潰される人を救えないもどかしさって、ものすごくありましたよ。彼にも、父にも言えなかった。父は創業者であり、オーナーで、社長だから…。当時の自分は何の権限もない。無力なんですよ。
この頃から、父の後を継ごうと真剣に考えるようになりました。経営する立場になったら、社風を変えたいと思ったのです。2009年に社長になってから、一貫して社風重視ですよ。その頃に、松本さんや斎藤さんを採用しました。責任者として雇うと、味方ができたような気がして、当時、まだ工場長だったあの人に多少、モノが言えるようになったのです。
自分が採用すると、かわいいものなんですよ。そんな人たちをあの工場長たちから守らないといけない、と思っていました。ただ、私も辞めさせることはしなかった。2010年に辞めるまでひたすら待ちました。
父が社長をしていた頃、私が強く言っていれば、辞める人は少なくなったかもしれないと悔いる時がありました。言えるような状況ではなかったのですが、当時を振り返ると考えるものがありますね。こんな経験があるから、楽しげな人や若い人を採用するようにしているんです。
松本 私は(あの頃)、めちゃくちゃ真面目でしたよ。
男澤 こういう性格に魅力を感じたんです。斎藤さんにも…。面接で、ぜひ、入社してほしいと思ったから、強引に誘って…。
斎藤 本当ですか…。あっ、明日、振替休日で休ませてください。
男澤 はい、承知しました。こんな場で…(笑)。私は、社風には気をつけているんです。なるべく、(組織のヒエラルキーを)フラットにしたいんですよ。気をつけないと、うちの規模だと、かつての工場長のような人が誕生する可能性があると思うのです。だから、社内の改革を次々としています。