Wedge創刊30周年記念インタビュー・新時代に挑む30人

2019年10月12日

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磯山友幸 (いそやま・ともゆき)

経済ジャーナリスト

1962年東京生まれ。1987年早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年3月末で退社、独立。現在、経済政策を中心に政・財・官を幅広く取材、各種メディアに執筆するほか、講演やテレビ出演、勉強会の主宰など幅広く活躍している。オフィシャルHP(http://isoyamatomoyuki.com/)

著書に『2022年、「働き方」はこうなる』(PHPビジネス新書)、『理と情の狭間 大塚家具から考えるコーポレートガバナンス』(日経BP)、『国際会計基準戦争 完結編』(日系BP)、『ブランド王国スイスの秘密』(日経BP)など。共著に『オリンパス症候群 自壊する「日本型」株式会社』(平凡社)、『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。

早稲田大学政治経済学術院(大学院)非常勤講師、上智大学非常勤講師。ボーイスカウト日本連盟理事。静岡県ふじのくにづくりリーディングアドバイザーも務める。

日経ビジネスオンライン(日経BP)、現代ビジネス(講談社)、フォーサイト(新潮社)、月刊 WEDGE(ウェッジ)、月刊 エルネオス(エルネオス出版)、フジサンケイビジネスアイ(産経新聞社)などに連載コラムなどを持ち、定期執筆している。

本記事掲載のWedge5月号『創刊30周年記念インタビュー「新時代に挑む30人」』では、「ホンダジェット」の生みの親・藤野道格氏ラグビー日本代表・リーチ・マイケル氏USJ復活の立役者でマーケターの森岡毅氏大峯千日回峰行を満行した大阿闍梨・塩沼亮潤氏など様々な分野で令和の時代を牽引していく30人にインタビューを行いました。

「自然農法」という理想を持って、条件の厳しい山間部で就農した青年。10年の歳月をかけて経営として成り立つ農業を確立した。 

実取 義洋(みとり・よしひろ):1980年生まれ。父親が営む養豚業を手伝うかたわら、環境保護活動に取り組む。その後、思い立って就農。自然農法によって、在来種のコメの生産に取り組むほか、水田ごぼうの生産にも力を入れ始めた。
(写真・生津勝隆)

 「30年後、私は68歳。父の今の年齢になります。その時まで、山間地に人が住み、山林も農地もあり、きれいだと言ってもらえる風景が残せるかどうか」

 実取義洋が子どもの頃住んでいた熊本県菊池市の山間部に戻り、農業を始めて10年近くになる。農薬だけでなく肥料も使わない「自然農法」でコメを作る。イノシシが出て全滅した年もあるなど苦労の連続だったが、「自然」にこだわり続けた。

 父は養豚業を営む。「命」を頂いて大きくなったことに「疼(うず)き」のようなものを感じてきた。狭い豚舎でストレスをため、病気が出るのを抑えるために、抗生物質を与える。まるで人間社会の縮図ではないか。

 自然農法という農業の常識からすれば無謀な取り組みに、周囲の農家は温かい目を向けた。菊池には40年以上前から自然農法に挑戦する先輩たちがいた。

 「皆が安全で安心な物をお腹いっぱい食べて笑顔になるために努力をしてきた。先輩たちの思いが息づいている」。そんな伝統をどう次世代につないでいくか。

 自然農法を通じて、人は自然のみで生きられると痛感した。先人たちは自然を使って生活を豊かにしようと工夫した。コメを作り、川の水運で物を運んだ。もう一度、山の資源を最大限に活用して、豊かさを実感できる山間地の生活を実現したい。

 幻のコメと言われる「旭1号」や「亀の尾」の栽培にも取り組む。明治の農家が在来種から生んだ傑作とも言える品種で昭和に広く普及した。後のササニシキやコシヒカリ、あきたこまちなどの先祖に当たる。原点を知ることで先人に思いをはせる。

 食味の良さは抜群だが、育てるのは難しい。だが、そうやって思いを込めて育てたコメがきちんとした価格で売れるようになった。菊池で通販サイト「自然派きくち村」を営む渡辺義文が、「言い値で全て買い取る」と言ってくれたことが大きい。また、ご縁があって銀座の高級寿司店「はっこく」に「旭1号」を納める。店主に「決め手は味」と言われたことが自信になった。

 「理想を追うだけではダメ。経営として成り立つ農業にして初めて後継者が育つ」と、菊池の自然農法のパイオニアである冨田親由にアドバイスされた。

 実取は菊池の名産品である水田ごぼうの生産にも乗り出した。ところが無肥料ではまともに育たない。実家の養豚から出る堆肥を使う決断をした。菊池は畜産王国だが、その糞尿は産業廃棄物として処分されている。これを農業に循環できないか。

 実取の子ども6人は自然の中で育つ。「夢は農家。父ちゃんの後を継ぐ、と言ってもらえるかどうかですね」。

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